- 2020-12-1
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- ハイドロゲル, ファンデルワールス引力, ラメラ構造, 光熱変換ナノ粒子, 刺激応答性, 無機物質, 理化学研究所, 研究, 酸化チタンナノシート, 静電斥力
理化学研究所は2020年11月27日、無機ナノシートと水のみを利用して、生物のような力学物性を動的に変化させる「ハイドロゲル」の開発に成功したと発表した。
無機物質は、基本的に硬く、刺激応答性に乏しいため、生体特有の柔軟性や刺激応答性などの動的機能を実現するのは極めて困難だった。そのためこれまで刺激応答性を示す生体模倣ソフトマテリアルは、概ねポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)などの有機物質のポリマーを刺激応答性ユニットとして利用していた。
今回の研究開発では、無機物質の酸化チタンナノシートに着目。酸化チタンナノシートは厚さ0.75nm、横幅数µmで、表面に高密度の負電荷を帯びた二次元物質だ。水中ではナノシート間に、電気的な反発力である静電斥力と、原子や分子間に働く引力であるファンデルワールス引力が拮抗して働くために、各ナノシートが一定間隔を保ったラメラ構造を形成する。
同研究所では、25℃の室温で濃度を上げてゲル状にした同ナノシートを90℃まで上昇させいくと、55℃付近で柔らかいゲル状から硬いゲル状へ転移することを発見。解析の結果、55℃以上では、ナノシート間に働く静電斥力が弱まり、代わりにファンデルワールス引力が支配的になっていることが判明した。
これによりナノシート間の距離が減少し、シートが互いに積層することで三次元的に連続したネットワーク構造を形成したと考えられるという。この状態への構造変化は、高温に達してからわずか2秒で完了することも確認。さらに、この状態から低温にすると、元の斥力が優勢な柔らかいゲルに戻り、この動的プロセスは何度も繰り返し可能な高い耐久性を示す。
また、斥力が優勢のゲルに、微量の光熱変換ナノ粒子(直径17nmの金ナノ粒子)を添加することで、光を照射した箇所のみ選択的に引力優勢の状態にできることにも成功した。こちらも数秒レベルの高速で状態が変化する。
今回研究開発によって、これまで高分子材料などの有機物質に頼ってきた刺激応答性ユニットとして、無機物質を利用するという新しい戦略を提示し、次世代のスマートマテリアルの新たな設計指針になることが期待できる。