超精密な金属製中性子集束ミラーを開発――多様な中性子ビーム集束デバイスの普及に期待 理研ら

理化学研究所(理研)は2019年9月19日、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、京都大学らの共同研究グループとともに、金型用の超精密加工技術と金属多層膜の成膜技術を融合させることで、金属材料のみで構成される中性子集束ミラーの開発に成功したと発表した。今回の研究成果は、低速中性子ビームの輸送や集束手法を大きく変える可能性があり、中性子ビーム利用に大きく貢献することが期待できるとしている。

近年、中性子ビームを用いた散乱実験は、X線と同様に物質の構造解析に欠かせない手段になっている。そのためJ-PARC(大強度陽子加速器施設)の物質・生命科学実験施設(MLF)をはじめ大型の中性子源が世界中で稼働しているだけでなく、理研の小型中性子源システム「RANS」のような小型の中性子源の整備も盛んに行われている。

一方で、中性子ビームを扱う上での困難な問題の一つに「輸送が難しい」ことが挙げられる。この問題を改善する手段として広く用いられているのが、「中性子スーパーミラー」と呼ばれる特殊な金属多層膜であり、この多層膜は比較的大きな角度で中性子ビームを反射できるため、これを筒状にしたガイド管が発生源から測定試料まで、光ファイバーのように中性子ビームを輸送する手段として用いられている。

さらに中性子スーパーミラーの応用として、中性子ビームを湾曲したミラーで反射して試料に集める集束ミラーの開発が望まれている。この「中性子集束ミラー」が普及すれば、これまで試料にたどり着かずに無駄になっていた中性子ビームを集めて有効活用できるようになり、測定の大幅な効率化につながる。中性子集束ミラーを実現するためには、精密な曲面基板の上に「中性子スーパーミラー」と呼ばれる金属多層膜を成膜する必要があり、その基板には0.1ナノメートル級の滑らかさが求められる。しかし、従来はガラスやシリコンといった硬くて脆い材料が採用されていたため、大型化や複雑形状への対応が困難だった。

今回、共同研究グループは、レンズ金型用の無電解ニッケルリンメッキを用いることによって、金属材料のみで基板を製作する方法を確立し、実用化に十分な約0.1mm幅の集束ビームを実現した。この中性子集束ミラーは、耐放射線性の高い金属材料のみで構成されており、従来は困難だった大強度中性子源近傍でも利用可能だ。

また、金属は多種多様な形状に加工できるため、より複雑で高機能なミラーの開発につながる。具体的には、ナノ構造の空間的な分布を高分解能で捉えるマッピング計測や、顕微法を利用したイメージングなど、さまざまな測定への応用が考えられるとしている。

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