授業で数学を選択しないと脳の認知機能に悪影響を与えるという調査

数学のスキルは、雇用、社会経済的地位、精神的または身体的健康など、さまざまなメリットと結びついているという。重要な科目にもかかわらず、学生時代に数学を苦手と感じて勉強しなくなった人もいるだろう。ところが、英オックスフォード大学の調査によれば、思春期に数学を学ばなかった場合、脳や認知能力の発達に悪影響を及ぼすという。研究結果は、2021年6月15日付けの『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載されている。

イギリスでは、16歳の生徒は大学進学に関わる「A-level」の科目から数学を外すという選択ができる。今回の調査を率いた認知神経科学のRoi Cohen Kadosh教授は「思春期は、脳と認知能力の変化に関わる人生の中でも重要な時期だ。残念ながら、この年齢で数学の勉強をやめると、勉強し続けた人との間にギャップが生まれるようだ」と語る。さらに、数学を選択した人よりも収入が11%減る可能性も報告されている。

調査では14~18歳までの生徒133人を対象とし、脳の中前頭回(MFG)内の神経伝達物質「GABA(γ-アミノ酪酸)」の濃度を計測した。推論、問題解決、数学、記憶、学習といった多くの認知機能に関与するMFGにおいて、GABAは重要な役割を果たしている。

その結果、数学の勉強をやめた生徒の方がGABA濃度が低いことが判明した。科目別に分かれる前(数学を選択する/しないを決めてはいる)の14~15歳の生徒たちも調査したが、彼らにはGABA濃度の違いは見られなかった。さらに、GABA濃度を使って、19カ月後の数学的推論能力の変化を予測することもできた。

今回の結果から、数学教育が脳や認知機能の発達に影響を与えていることがうかがえる。「この格差、もしくは長期的な影響を避ける方法はまだ分かっていない」とKadosh教授は語る。また、一連の調査はコロナ禍以前に行ったので、休校で数学教育が中断されたことが、生徒たちの脳や認知機能にどのように影響するか知りたいと思っているという。

同時に「生徒全員が数学を楽しいと思っているわけではない」ため、数学のほかにも同じように脳に働きかけるものがないか探る必要があるとしている。

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