東京工業大学は2021年10月8日、同大工学院の研究チームが、排熱源を液体で冷却しながら発電を行う「レドックス・フロー熱電発電」で発電性能を向上させ10W/m2超の発電密度を達成したと発表した。研究チームはレドックス・フロー熱電発電技術を開発し、そのメカニズムを解明していたが、発電量の低さが課題だった。同大は、今回の成果を技術コンセプトの実用性を立証したマイルストーンとなる成果であるとしており、その詳細は、2021年9月24日付で英国王立化学会の学術誌『Sustainable Energy & Fuels』にオンライン掲載された。
現代社会の便利な生活は電力と情報技術によって支えられており、データセンター、パワー素子、車載電池セルを始めとする排熱面冷却は欠かせない技術になっている。世界中の100~200℃の熱源の多くが積極冷却を要する排熱面だが、現在、冷却方法として多く用いられている強制対流冷却では、熱エネルギーの電気(仕事)への可換分の多くは失われる。研究グループは、液体側で熱から電気への変換をしながら、その液体を冷却の作動流体として使うことで「物体を冷やしながら発電する」ことができるのではないかと考えた。
研究の結果、2017年に静的な排熱利用技術の一種である熱電気化学発電と強制対流冷却を統合したレドックス・フロー熱電発電を考案。2019年には発電のメカニズムを解明したが、発電密度が0.44W/m2と低く、技術の実用化には発電性能の大幅な向上が課題だった。
発電量が低い原因は、2019年のメカニズム解明から既に判明していた。酸化還元種溶液と冷却液を兼ねている作動液の溶媒として用いたイオン液体が高粘度で、溶質である酸化還元種の運動性を低下させることが原因であることから、研究グループは溶媒に適した液体を探していた。
今回の研究では、溶媒になる液体の条件として6項目を挙げて検討した。水と同程度の低粘度であること、沸点が200℃以上であること、酸化還元種の溶解度が高いこと、化学的/熱的安定性が高いこと、低コストかつ使用実績が十分あること、そして、毒物及び劇物取締法に該当しないことだ。この結果、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)が全ての条件を満たすことが分かった。
GBLを用いて開発した作動液を使い、170℃の排熱面を模擬した電極に対して冷却実験を行ったところ、発電量は6mW、発電密度は10W/m2に達した。その結果、硬貨程度の小さな発熱面から、セル直列なしで緑LED8個を連続同時点灯させたりファンモーターを回転させたりできるだけの電力を得られた。
研究グループは今後、面積を増大させても同程度の発電性能を達成できるスケールアップ方法論の確立や100W/m2以上の発電密度の達成を目指し、共同研究のパートナーを募りつつ、実用化に向けた研究を進めていく。