- 2022-10-22
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- Andreas Neophytou, Francesco Sciortino, Nature Physics, コロイドモデル, バーミンガム大学, ボストン大学, ローマ・ラ・サピエンツァ大学, 位相的複雑さ(topological complexity), 学術, 水, 液体-液体相転移の理論, 過冷却状態
水が、ある液体状態からより高密度の液体状態に変化することを示す、新たなシミュレーションモデルが提案された。バーミンガム大学とローマ・ラ・サピエンツァ大学の共同研究によるもので、『Nature Physics』誌に2022年8月11日付で公開されている。
このような水の液体-液体相転移の理論は、1992年にボストン大学の研究チームにより提案されている。しかし、この相転移は過冷却状態で生じると予測されていたため、低温で氷になる性質の水において、この液体-液体相転移の存在を証明することは困難だった。
今回研究チームは、コンピュータシミュレーションを活用して、2つの液体を区別する特徴をミクロなレベルで明らかにした。その結果、高密度液体中の水分子は、三葉結び目(1本の紐を最も簡単に結んだ時にできるプレッツェルのような形)やホップリンク(チェーンのように2つの環がつながっている状態)と呼ばれる「位相的複雑さ(topological complexity)」を持つ配列を形成していることが明らかとなった。このことから、高密度液体中の水分子は絡み合っていることが示唆される。一方、低密度液体中の水分子はほとんどが単純な環を形成しているため、分子同士は絡み合っていない。
コンピュータシミュレーションには、水のコロイドモデルと一般的に使用されている2種類の水分子モデルを用いた。コロイドは水分子1つより100倍も大きな粒子であるため、原子や分子よりもはるかに動きが遅く、物理現象を観察、理解するために利用できる。
論文の筆頭著者であるバーミンガム大学のAndreas Neophytou博士は、「水のコロイドモデルは、水分子を拡大鏡で見るようなもので、2つの液体に関する秘密を解き明かすことができます」と述べている。
研究チームは、今回考案したモデルにより、理論を検証する新しい研究への道を開き、「絡み合った」液体の概念がシリコンなど他の液体にも拡大することを期待している。
共著者であるローマ・ラ・サピエンツァ大学のFrancesco Sciortino教授は、30年前のロンドン大学研究チームのメンバーだ。「私たちは今回の研究で、ネットワークの絡み合いという考えに基づいた液体-液体相転移の見方を初めて提案しました。この研究が、トポロジカルな概念に基づく新しい理論モデルの刺激になると確信しています。液体の中を覗いて、水分子のダンス、パートナーの交換、水素結合ネットワークの再構築などを観察できたらどんなに美しいだろうと夢想しています。私たちが提案する水のコロイドモデルを実現すれば、この夢が現実のものとなるのです」と述べている。