音漏れを打ち消し、利用者にしか聞こえないイヤホンの設計技術を開発 NTT

日本電信電話(NTT)は2022年11月9日、ごく小さな空間に音を留める新たなスピーカーエンクロージャー設計技術を開発したと発表した。耳に差し込まないオープンイヤー型でありながら、音漏れを低減することで快適に自分だけの音響空間を楽しみながらも周囲の人とコミュニケーションをとれる。

イヤホンが生活必需品になりつつあるが、長時間の装着は耳への負担や健康被害も懸念されるほか、密閉度の高いイヤホンやヘッドホンは、周囲の音が聞こえないというデメリットがある。また、オープンイヤー型イヤホンは、周囲への音漏れというデメリットがある。

そこで、密閉型とオープンイヤー型のメリットを両立し、デメリットを補い合う、音漏れが少ないオープンイヤー型イヤホンを実現できるスピーカーエンクロージャーの設計技術を開発した。

音は空気の振動であり、振動を起こす音源から波のように耳に伝わる。人は、耳の鼓膜が振動し、音を感知する。身近な音響機器でみると、スピーカーは、電気信号を空気の振動に変換することで音を出す。

イヤホンは小さなスピーカーと言えるもので、電気信号を受けた音の再生装置(ドライバーユニット)内のパーツを振動させ、音を発する。一般的なスピーカーの発する音は全方向に広がり、オープンイヤー型イヤホンに顕著な「音漏れ」は、スピーカーから放射された音が周囲に拡散した状態となる。

過去に同社が開発した能動サウンド制御技術は、複数のスピーカーを配置して位相の異なる音波を制御し、スピーカーの発する音を一定範囲内に留めることで制御する技術だったが、今回は新たなスピーカーエンクロージャー設計技術を開発。複数の穴を、スピーカーを覆う筐体(スピーカーエンクロージャー)の側面位置に適切に開け、単一のスピーカーのみで音を耳元近傍の局所的な空間に留める。

スピーカーの前面から放射した正相の音波が、耳に届いた際に発生する耳で反射した音漏れに繋がる音波を、スピーカーエンクロージャーの側面の穴から放射した逆相の音波で抑圧する。これにより、耳元から離れると音漏れが非常に小さくなる。

音漏れを低減する新たなスピーカーエンクロージャーの原理のイメージ図

音漏れのシミュレーションでは、通常エンクロージャーは、耳だけでなく、高い音圧が広範囲にわたり観測でき、音漏れが発生していることがわかる。しかし、今回開発した技術を利用したエンクロージャーは、耳元では高い音圧を観測しながら、頭部周囲の音圧は低く音漏れを低減していることがわかる。

通常エンクロージャーと本技術のエンクロージャー構造を耳に装着した際に、頭部の真上から俯瞰した頭部周辺の音圧分布

また、騒音レベルも比較した。この技術を用いたオープンイヤー型イヤホンの耳元の騒音レベルは80dBだったが、15cm離れた位置に置いた音漏れ測定マイクの騒音レベルは43dBとなり、大きく音漏れを低減できていることがわかった。これは、耳元では通常イヤホンで音楽を再生する程度の大きさで聞こえるが、15cm離れた位置では図書館の静けさと同等になっていると言える。

今回開発した技術は、快適さを損なうことなく、聞かれたくない音を周囲に漏らさないことをめざして開発した。今後も研究開発を推進し、様々な場所での応用を検討していく。また、オープンイヤー型イヤホンを活用し、直接耳に届くリアルの空間の音に合わせ、イヤホンから再生する音を加えてさまざまな情報を付与する新たな価値の提供も目指す。

NTTソノリティから、この技術を活用したオープンイヤー型イヤホンも発売。今後、同社グループの各事業会社を通して、この技術に基づくサービスやソリューションを提供していく。

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