白金を用いずに高い特性を発揮する触媒を開発――水素燃料電池での実用化に期待 筑波大学ら

筑波大学、九州大学および鶴岡工業高等専門学校の共同研究チームは2022年11月14日、高い電圧特性や電流特性を有する窒素ドープカーボン触媒を開発したと発表した。

現在商用化されている水素燃料電池の正極には、白金系触媒が用いられている。白金は高価で、埋蔵量が限定されているため、白金を用いない触媒の開発が求められている。

窒素ドープカーボン触媒は耐久性に優れるほか、コストも低いため、有力な代替候補として期待されている。ただし、燃料電池セルで酸性のプロトン透過膜を使用するにあたり、酸性環境下で触媒活性が低下してしまうことが実用化への課題となっていた。

同研究チームは、以前より窒素ドープカーボン触媒の酸性環境下での活性低下のメカニズムを調べている。その結果、反応中に活性点が水和することが主要因となり得ることを解明した。酸性環境下での活性向上にあたっては、活性点の水和を防止することが重要となる。

今回の実験では、窒素ドープカーボン触媒の中でも高い活性を有する傾向にある窒素ドープグラフェンをベースとした。

酸化グラフェンと塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を混ぜ合わせ、水を蒸発させることでNaClを結晶化させて、その周りを酸化グラフェンが覆う構造を作製した。これにより、グラフェン同士が積み重なって疎水性に悪影響が生じることを防いでいる。

これをアンモニア雰囲気で加熱して窒素ドープを行い、NaClを水に溶かして取り除くことで、籠状の隙間を有する窒素ドープグラフェンが得られた(冒頭の画像左)。

このグラフェンの酸素還元反応活性を測定したところ、酸性溶液中でもアルカリ性溶液中とほぼ同等の活性となることが確認された。また、白金系触媒に近い発電電圧を示している(冒頭の画像右)。

各種顕微鏡などを用いて構造を解析したところ、酸素が籠状構造内に気体としてトラップされ、反応のメカニズムも変化することが判明した。籠状構造とすることでロータス効果(数十μmの凹凸構造により高い疎水性を発揮する効果)により活性点付近が疎水的になり、酸化還元反応の素過程が促進されている。

⼀方で、白金系触媒と比べて、過電圧を印加した際の電流値は大きな減衰を示した。活性点へのプロトン供給が十分でないことを示唆するものとなっている。

そこで、プロトン伝導を担う高分子をまとったSiO2微粒子(ポリマーブラシシリカ粒子:PSiP)を籠状構造内へ導入してプロトン供給のルートを形成したところ、過電圧印加時の電流特性も白金系触媒に似た傾向にまで向上した。

既存の燃料電池セルの作製条件は、白金系触媒に向けて最適化されたものとなっている。今後は窒素ドープグラフェン触媒に同条件を最適化することで、実際の燃料電池セルでも同等の正極触媒活性を引き出すことが求められる。

また、同研究チームは、電流特性にさらなる改善の余地があるとしており、今後反応メカニズムの解析などを行うことで触媒特性のさらなる改良を進める。

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