- 2023-1-27
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~2050年カーボンニュートラルに向けたクリーンテックの取り組み~
今回の連載では、家庭向けスマートリモコンやエネルギーマネジメントデバイスをコアに、スマートグリッド向けサービスの開発に取り組むNature株式会社 創業者の塩出晴海氏に、太陽光発電を中心としたクリーンテック業界を取り巻く状況や今後の展望について、お話を伺います。
連載第1回「クリーンテック業界を取り巻く、大きな二つのトレンドとは」では、Natureが開発するスマートリモコン「Nature Remo」とHEMSデバイス「Nature Remo-E」で実現する、家庭でのエネルギーマネジメントや業界を取り巻く二つのトレンドをご紹介いただきました。続く第2回は、「今起こりつつあるエネルギー革命とは」と題し、太陽光発電を中心とした「再生可能エネルギーの変遷」について、お話いただきます。(執筆:後藤 銀河 撮影:編集部)
プロフィール
Nature株式会社 創業者 塩出 晴海氏
13才の頃にインベーダーゲームを自作、2008年にスウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程を修了、その後3カ月間洋上で生活。三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発等を経験。2016年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA課程を修了。ハーバード大在学中にNatureを創業。
――現在に至るまでクリーンテック業界はどのように変遷してきたのでしょうか?
[塩出氏]「家庭における電力」という視点で言えば、ようやく時代のニーズとマッチし、クリーンテック業界でブレイクスルーが起きそうだと感じています。
少し変遷をご紹介すると、2008年頃に、オバマ大統領が「グリーン・ニューディール政策」を掲げて、再生可能エネルギーへの1500億ドルの投資などを表明し、クリーンテック業界が一気に伸びたことがありました。ただ、当時はまだグリッドパリティ(再生可能エネルギーによる発電コストが従来の電力と同等かそれ以下になること)に達しておらず、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーの電力価格は、化石燃料と戦えるレベルになっていませんでした。導入を促進するための補助金の仕組みはあったのですが、それを前提としたビジネスモデルでは長続きはしません。しかし、現在の世の中ではクリーンテックを後押しする「エネルギー革命」が起きているのです。
このエネルギー革命が何によってもたらされているかというと、大きく2つの要素があります。
一つは化石燃料に依存していた現代社会で人口が増加し、それに伴って二酸化炭素排出量も増え、平均気温の上昇を1.5℃や2℃というレベルに抑えなければ地球環境が危うい状況にあることです。日本ではそれほど深刻な感覚がないかもしれませんが、温暖化がこのまま進むと地球では生活できなくなることは科学的にも証明されていて、この問題を解決するために、世界中の国々が様々なアクションをとっています。
もう一つの要素は、こうした状況を予測していたこともあり、世界中で太陽光や風力、地熱などの、再生可能エネルギーの開発が進んだことです。特に太陽光は、ここ10年でパネルの価格が10分の1程度まで安くなり、化石燃料による発電と戦えるレベルになってきました。
つまりトレンドとしては、地球環境を守るために再生可能エネルギーにシフトするという大きな地球規模のアジェンダがあり、太陽光発電を中心とした再生エネルギーの経済性も充足されて、これによってエネルギー革命がおきて、クリーンエネルギーへのシフトが加速していると言えるのです。
――各国のSDGsに向けた取り組みの本格化に加え、太陽光発電がグリッドパリティに達したことで加速度的に再生可能エネルギーの導入が進み始めているということですね。世界情勢も、石油やガスの価格が高くなる方向にあり、電力価格も高止まりにある状況です。
[塩出氏]再生可能エネルギーにシフトしていく下地が整い、その動きも加速度的に速くなっています。さらに、今の世の中の出来事の影響から、この1年ほどの間で、この流れが5年から10年程は短縮されたと感じています。
コロナ禍やウクライナ戦争、困難な世界情勢が再エネシフトを加速している
[塩出氏]まず、世界的に深刻な問題となった新型コロナウイルス感染症によるダメージからの経済復旧を進める上で、再生可能エネルギーにフォーカスを当てた国がヨーロッパを中心に多かったのです。アメリカのバイデン大統領も再生可能エネルギー重視へと舵を切っていて、グローバルに再生可能エネルギーへの転換が次なる経済成長の軸として設定されたという状況があります。
再生可能エネルギー、脱炭素という方向に舵を切るといっても、いきなり太陽光パネルをばら撒いたり、風力発電設備をどんどん建設したりというわけにはいきませんから、一旦は石油から天然ガスにシフトするという動きになりました。天然ガスは化石燃料の中では最もクリーンだとされています。
コロナ禍からの復旧が進むにつれ、経済規模の拡大にリンクして電力使用量も増えてきたところで、2021年10月頃に一気にガスのニーズが膨れ上がり、供給が間に合わなくなるという事態が起こりました。さらに追い討ちをかけるように、ウクライナで戦争が起こり、ロシアからのガス供給の問題が顕在化して、切迫した状況に拍車がかかりました。向こう1年のガス価格はかなり高値のトレンドになっています。
——特に天然ガスをロシアに依存しているヨーロッパの状況は厳しいようです。
[塩出氏]日本も4割ぐらいがガス火力ですし、ヨーロッパも3、4割がガス火力です。ただ、今の状況として、一旦はガス火力がメインになっていますが、グローバルに再生可能エネルギーにシフトしなければならないことは分かっているので、5年10年のスパンでみれば、太陽光と風力の2つを主要電源としていかに伸ばしていくのかがポイントです。実際に2050年のカーボンニュートラルのタイミングにおける各国のエネルギーミックスの予測値を見ると、ほとんどの国で太陽光と風力発電の割合が5割を超えるという想定になっています。
——電気代が高いということで、再生可能エネルギーに対する消費者の期待値も高まりますね。
[塩出氏]直近のガスの価格が高いことへの対抗策としては、極力ピーク時に電源を使わないようにすること、また、市場価格の高騰を避けるために、いかに電力需要をマネジメントして平準化するかが重要になります。また、需要家側としては、太陽光発電を自分たちの資産として導入して、高い電気を買わずに自分たちで作るようにすることもポイントです。
再エネを最大限有効に使うためには需要側でのエネルギーマネジメントが不可欠
[塩出氏]ガスや石炭、原子力などと比べると、太陽光や風力は出力の変動が大きい変動電源です。出力が読めない電気が主要電源になっている世界においては調整力を大きく持つこと、そして需要側でエネルギーマネジメントを行うことが重要になります。だからこそ、弊社もエネルギーマネジメントにフォーカスして、今後の事業を展開していこうと考えています。
次回は「再エネへのシフトがスマートグリッドへの進化を促す」と題してお話を伺います。
取材協力
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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。