国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は2023年3月23日、科学計算技術サービスを展開するRICOS(旧 科学計算総合研究所)などの研究グループが、水や空気などの流動現象をAIによって高精度、高速で予測する技術の開発に成功したと発表した。これまでのAI技術を使った予測モデルは、複雑な条件でのシミュレーションには適用できないことが多く、信頼性や汎用性に課題があった。
本研究グループは、物理シミュレーションの技術と機械学習の技術を組み合わせることによって、信頼性や汎用性を担保しつつ、既存のデータを活用して予測を行うという機械学習の強みを生かした、高速な予測モデルを実現した。
具体的には、空気は気圧の高いほうから低い方に流れるといった、物理量の相対的な関係(空間微分)を計算する物理シミュレーションの手法を機械学習アルゴリズムの内部に導入。さらに、流動現象では流れの情報が瞬時に遠方に伝わることがあり、それが解析を困難にするという問題を解決するために、機械学習アルゴリズム内部で予測処理を繰り返し行い、その繰り返し計算をより高精度に行う手法を開発した。
また、流動現象の物理シミュレーションにおいては「空気が入ってくる部分」や「空気を通さない壁の部分」といった形で解析したい現象の条件を設定するが、既存の機械学習技術ではこのような条件を厳密に考慮できなかった。こうした点についても、機械学習アルゴリズムの内部で取り扱われる抽象的な高次元のデータ空間において、入力された物理的な条件に対応する条件の定式化を導くことによって、世界で初めて機械学習アルゴリズムと物理現象の条件の厳密な取り扱いの両立に成功した。
水の流れや空気の動きなどの流動現象の解析は、室内の空気の流れの予測や気象予測、工業製品の設計などに活用されているが、流動現象の複雑な動きを完全に予測することは難しく、多くの場合、従来型の物理シミュレーションによる仮想的な予測を行っている。研究グループは、今回の技術を使えば、飛沫による感染症予防のための換気の効率化や、気象予報の高精度化のほか、設計および製造においてボトルネックとなり得る、流動現象のシミュレーションによる評価プロセスを高速化できる可能性があるとしている。
今回の研究成果は2023年3月22日、機械学習トップ国際会議「Advances in Neural Information Processing Systems」のオンライン版で公開された。