2050年カーボンニュートラルに向けた「メタネーション」技術とは[東京ガスに聞く、CO2ネットゼロを目指すエネルギー産業の最新事情]

(東京ガス株式会社 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 革新的メタネーション技術開発グループ 小笠原 慶氏)

世界的な潮流となっているカーボンニュートラルの実現に向けて、日本も「2050年ゼロカーボン」を目標として掲げ、官民一体の取り組みが活発化しています。特に石炭や石油、ガスなどの化石燃料に大きく依存している産業界では、脱炭素社会の実現に向けて大きな構造改革、技術革新が求められています。

今回の連載は全2回の構成で、東京ガス株式会社 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 革新的メタネーション技術開発グループ 小笠原 慶氏に、カーボンニュートラルの実現に向けた同社の取り組みや、実現の鍵となる「メタネーション技術」の概要と今後の方向性について伺いました。(執筆:後藤銀河 撮影:編集部)

<プロフィール>
東京ガス株式会社 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 革新的メタネーション技術開発グループ 小笠原 慶氏

1992年に東京ガスへ入社。固体酸化物形燃料電池(SOFC)、家庭用燃料電池(エネファーム)、業務用超高効率SOFCなど、燃料電池関連の研究開発を担務。燃料電池や天然ガス自動車の規制緩和、標準化に関する業務にも従事。2021年より現職場にて、メタネーションの実証や技術開発を統括。

――まず、今回のテーマである「メタネーション」とはどのような技術なのでしょうか。

[小笠原氏]メタネーションとは、水素と二酸化炭素(CO2)を化学反応させて、都市ガスの主成分となるメタンを合成する技術です。発電所などから排出されるCO2を回収して、再生可能エネルギー由来の水素と反応させて合成メタンを製造することで、「合成メタン利用時のCO2排出量=CO2回収量」となり、実質的に大気中のCO2を増加させないCO2ネットゼロの実現が可能となるのです。2050年カーボンニュートラルを実現するために重要な技術であり、弊社もメタネーションの大規模・高効率化、商用化に取り組んでいます。なお現在では、合成メタンのことを「e-methane」(e-メタン)と呼んでいます。

天然ガスをe-メタンで置換することで、脱炭素化を実現する

カーボンニュートラル実現に向けたe-メタンの活用には、既存の天然ガスのインフラが利用できるという大きなメリットがある。画像提供:東京ガス

[小笠原氏]弊社は「2050年カーボンニュートラル実現」に向けて、再生可能エネルギーの拡大とe-メタンによるガス体エネルギーのカーボンニュートラル化を大きな活動の柱に据えており、「脱炭素化/カーボンニュートラル化(GX)」、「レジリエンス向上」、「既存インフラの有効活用」という3つの視点から、様々な取り組みを進めています。

具体的な取り組みの例として、石炭や石油などの化石燃料から天然ガスへの置き換えがあります。天然ガスは石炭や石油などに比べて燃やしたときのCO2の排出量が少なく、窒素や硫黄分をほとんど含まないため、大気汚染の原因になる窒素酸化物や硫黄酸化物の排出が少ないというメリットもあります。CO2の排出量が多いお客様に天然ガスを使っていただくことで、低炭素化を推進することができます。

また、天然ガスを原料としている都市ガスの導管は、大半が地中に埋設されているため、インフラとして強靭で災害に強いというメリットもあります。災害大国である日本において、エネルギーソースの多様化、分散化は重要事項であり、天然ガスの普及がレジリエンス向上にもつながるのです。

このようにメリットも多い天然ガスですが、その主成分はメタンです。今後、冒頭で説明したメタネーションで製造したe-メタンを天然ガスと置き換えれば、カーボンニュートラルに大きく貢献できると考えています。e-メタンは、既存のLNG(液化天然ガス)サプライチェーン全体にわたって既存のインフラをそのまま使うことができるので、追加のインフラコストを抑制することもできます。

――天然ガスは石炭や石油と比べて、よりクリーンなエネルギーなのですね。まずは天然ガスへの転換でCO2の排出量を減らし、最終的にはメタネーションによるe-メタンと置き換えることでカーボンニュートラルを実現するという2段構えのアプローチですね。

[小笠原氏]その通りです。もちろん、水素を燃料にしたり、再生可能エネルギーによる電力を直接利用してもカーボンニュートラルは実現可能ですが、特に製造業において、製鉄など高い燃焼温度が必要なプロセスを伴うものには、水素や電気による加熱では高い温度を得ることが難しいものがあります。既存のお客様にも炭化水素系のガスを燃やして高い熱量を得ている需要家も多いので、そうしたところには都市ガスのインフラがそのまま利用できる合成メタンへの転換が、効果的なアプローチになると考えています。

2030年までに都市ガスの1%をe-メタンで置き換える

ガスの脱炭素化のロードマップでは、2030年に都市ガスの1%をe-メタンで置き換えることを目標としている。画像提供:東京ガス

[小笠原氏]この図は2050年までのカーボンニュートラルに向けた取り組みをまとめたものです。まず、2030年頃までは低炭素化を進めていくことになります。CO2の排出量をゼロにはできませんが、できる限り減らしていくために、先ほど申し上げた、石炭や石油を使っているお客様に天然ガスを使っていただく取り組みを進めていきます。

並行して脱炭素化に向けた活動もスタートしており、安価な水素製造技術の確立とe-メタンを製造するメタネーションの推進を進めています。2030年時点で、都市ガスの1%をe-メタンに変えることを目標においています。

水素とCO2からe-メタンを合成するメタネーション技術

[小笠原氏]こちらがメタネーションのフロー図です。e-メタンは水素とCO2から作ります。e-メタンもメタンですから、燃やせばCO2が出ます。ただ、原料とするCO2を発電所のような排出源から回収し、再生可能エネルギーを利用して製造した水素と合成することで、これを燃やしても大気中のCO2は差し引きで増えないことになります。これがメタネーションによるカーボンニュートラルの仕組みです。

[小笠原氏]こちらは2030年に向けたe-メタンのロードマップになります。2022年3月から、ステップⅠとして、弊社の横浜テクノステーション内にメタネーション実証試験設備を建設し、年間最大5万m3規模の小規模実証を開始しています。2030年のe-メタン1%というのは、年間8000万m3に相当するため、今の実証設備の1000倍以上の規模のメタネーション装置が必要です。そのため、スピード感を持ってスケールアップしていく必要があります。

横浜市鶴見区にあるメタネーション実証設備。2030年目標の都市ガス1%のe-メタン化には、この1000倍以上の規模が必要だという。画像提供:東京ガス

[小笠原氏]この小規模実証では、近隣に施設を持つ横浜市などと連携して、下水処理場や清掃工場から出るCO2を活用してメタネーションを行う、地域連携の準備を進めているところです。

そして、2020年代後半にはステップⅡとして国内での地産地消も想定しています。工場やコンビナートの脱炭素化を進め、年間160万m3程度の規模が考えられます。製造業のものづくりプロセスで排出されるCO2を回収したり、セメント製造のような原材料(炭酸カルシウム)から排出されるCO2も回収し、e-メタンの原料とすることにも取り組みます。

――都市ガスの1%をe-メタンに置き換えることが2030年の目標とのことですが、現在の小規模実証の1000倍以上とスケール感がかなり違います。どのような形で実現されていくのでしょうか?小規模との大きな違いや、ブレークスルーはどのような点にありそうですか?

[小笠原氏]ステップⅡの地産地消までは、CO2排出量の大きい事業者と直結して、小規模実証をスケールアップしていくイメージを持っています。このような中規模設備の数を増やしつつ、目標とする合成メタン1%規模の社会実装に向けては、やはり国内の電力を使って水素を製造すると非常にコスト高になるため、海外での大規模なe-メタン製造とサプライチェーンの構築に軸足を移していく必要があります。

具体的には、まず、北米やマレーシア、オーストラリア、中東など、安価な再生可能エネルギーが利用できるところで水素を製造する必要があります。製造した水素を日本に運んでe-メタンを製造するよりも、現地でe-メタンを大量に製造して液化し、既存のLNGサプライチェーンを使って日本に輸送する方がコスト的にも有利なので、そのためのサプライチェーン構築も手掛けることになります。これは自社だけでは難しいので、商社や現地企業などのパートナーと連携して取り組むことになります。

ただ、海外で安価な再生可能エネルギーを利用したとしても、2030年時点でのe-メタンの価格はLNG価格よりもかなり高くなると見られていて、この価格差をどのように埋めていくのかが、大きな課題となっています。

e-メタンへの転換では製造コストの削減が必須

[小笠原氏]メタネーションで製造するe-メタンの目標水準価格は、LNGと同レベルに置いています。ところが、水素製造のコストダウン技術の導入や、海外での安価な再生エネルギー利用を織り込んだとしても、まだ大きな開きがあると見込まれています。この価格差を埋めるための技術開発が進められているのです。

次回は、「e-メタンの価格を下げる2つの革新的技術」と題してお話を伺います。

取材協力

東京ガス株式会社



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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