- 2024-8-23
- 技術ニュース, 電気・電子系
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宮崎大学工学部電気電子工学プログラム(GX研究センター兼任)の永岡章准教授らの研究グループは2024年8月22日、身の回りの熱を効率よく電気に変換するn型(Cu1-xAgx)2ZnSnS4(CAZTS)単結晶を開発したと発表した。有毒な元素や高価なレアメタルを含まないn型多元系硫化物材料(環境調和した材料)で最高値となるZT=1.1を500度付近で達成している。
日本中で発生している年間の廃熱量は、原子力発電所数十基分の発電量に相当すると試算されており、工場や自動車から排出される廃熱を再資源化する技術として、熱電変換技術が注目されている。
熱電材料として知られているテルル化鉛(PbTe)やテルル化ビスマス(Bi2Te3)は、有毒元素やレアメタルを含んでいる。さらに実用化の指標として1以上の熱電性能指数ZTが求められるが、達成できている材料は限られていた。再生可能エネルギーの代表格である太陽電池と熱電発電の比較では、太陽電池のエネルギー変換効率は10~15%であるのに対し、熱電発電は5~10%と、変換効率が低い点が研究課題となっている。
基本的な熱電発電デバイス構造は、柱状に切り出されたp型とn型の熱電材料の両端を金属電極と接続するパイ型構造を基本構造とし、それらを直列に接続して大出力の熱電発電デバイスとなる。材料毎に異なった特性を有し、熱電特性や安定温度が大きく異なるp型材料とn型材料を用いた熱電デバイスは、変換効率の低下や長期安定性が期待できない。
これまで高いZT>1を達成している材料は、ほとんどがp型材料で、高性能なn型材料が求められている。さらにほとんどの材料は、pn伝導制御が困難で、伝導型が制御できる材料はデバイス化に向けて大きなアドバンテージを有する。
研究グループが注目したCu2ZnSnS4(CZTS)は、地殻中に豊富に存在し、毒性の低い元素で構成された環境調和型だ。構成元素組成などをチューニングすることで環境調和したp型硫化物熱電材料において、世界最高値の性能指数ZT=1.6を達成している。
CZTSにおいてアクセプター欠陥は、ドナー欠陥よりも形成されやすく、p型伝導のみを示すため、組成制御や不純物ドーピング技術を用いた伝導型制御が難しく、信頼性のあるn型CZTSは報告されていない。
CZTSのn型化のために理論計算からアプローチしたところ、銅(Cu)元素を同じI族元素である銀(Ag)元素で置換することで、アクセプター欠陥を抑制し、効率よくドナー欠陥を形成することがわかった。
CZTSにAgを混晶した(Cu1-xAgx)2ZnSnS4(CAZTS)単結晶で、x>0.4の組成でn型化に成功。最終的にn型硫化物熱電材料で、世界最高値のZT=1.1達成した。さらに、n型CAZTS単結晶で熱電変換効率3.4%を示し、数百度の温度差でミリワットの電力を出力した。
今後、研究グループは研究の成果を生かしながら、長期安定性、高効率な環境に調和した熱電デバイスの開発を進めていくという。