- 2023-5-17
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物質・材料研究機構(NIMS)は2023年5月16日、ドライルームでマグネシウム金属蓄電池を作製可能にする基盤技術を開発したと発表した。実用化されれば、既存のリチウムイオン電池の生産ラインをマグネシウム金属蓄電池生産向けに転換することが可能となる。
マグネシウム金属蓄電池は資源制約が少なく、従来のリチウムイオン電池を超える高いエネルギー密度を有する。コストや生産性にも優れるため、次世代の蓄電池として注目されている。
一方で、マグネシウム金属蓄電池の製造にあたっては、電池材料の保管から電池作製までをアルゴンや窒素といった不活性ガス雰囲気中で行う必要がある。多額の設備投資が必要になることや、作業性が低下することが実用化への障壁となっていた。
今回の研究では、まずドライルームと同様の環境の乾燥チャンバー内で蓄電池の評価セルを組み立て、一定の速度で電圧を変化させて電流応答を測定した。同測定では、電流応答は全く観測されなかった。
次に、乾燥チャンバー内で研磨したマグネシウムを用いて、アルゴンで満たしたグローブボックス内で電圧電流を測定した。この場合では、マグネシウム金属の溶解析出反応を示す電流応答が観測された。
これらの結果により、乾燥した空気下で形成した被膜は電気化学反応を妨げず、他の要因でマグネシウムが失活していることが示唆される。
次に、乾燥空気の成分である窒素、酸素、アルゴンの各ガスを一定時間導入した後、電圧電流を測定した。その結果、酸素ガスを導入した場合に限り、電気化学活性が失われることが明らかになった。
また、各ガスを導入しながらマグネシウム金属負極の電位と電解液中の酸素濃度の時間変化を測定したところ、酸素導入によるそれぞれの変化の様子が類似していることが分かった。
酸化マグネシウムの電極電位は金属マグネシウムよりも高い。酸素導入に伴ったマグネシウム金属負極電位の上昇は、マグネシウムの酸化が進行していることが示唆される。
電解液は酸素に対して化学的に安定であること、酸素導入後にアルゴンを電解液に加えて酸素を除去しても活性が回復しないことも考慮すると、電解液-溶存酸素-マグネシウム金属の三相境界面に形成された不働態被膜によって、マグネシウム金属が不活性化する可能性が考えられる。
この場合、溶存酸素とマグネシウム金属が接触しなければ、乾燥空気中でもマグネシウムの電気化学反応が起こり、電池負極として機能する可能性がある。そこで、同研究チームは、酸素の透過を防ぐ効果を有する亜鉛に注目した。
さまざまな亜鉛化合物を含む前処理液を検討したところ、ジエチル亜鉛のエーテル溶液を用いた際に、特に良好な酸素バリア特性が現れることが判明した。ジエチル亜鉛溶液で処理したマグネシウムは、乾燥空気中でも5時間以上電気化学的な反応が継続している。
亜鉛被膜の化学分析から、マグネシウムと亜鉛の境界面が合金化され、電解液との境界面に近づくほど亜鉛の割合が増加し、表面が酸化亜鉛で覆われていることが判明した。
また、マグネシウム金属の断面を電圧電流測定後に電子顕微鏡で観察したところ、被膜を介してマグネシウム金属が溶解していることも判明した。
冒頭の画像は、人工被膜を被覆したマグネシウム金属断面の電子顕微鏡像だ。電圧電流測定後の断面観察から、被膜を介してマグネシウム金属が溶解していることが見てとれる。
以上から、亜鉛被覆したマグネシウム金属負極は、乾燥空気中でも電気化学的反応が持続することが確認された。
最後に、今回開発した人工被膜でマグネシウム金属を覆い、乾燥チャンバーとグローブボックス内の双方でマグネシウム金属蓄電池を作成した。双方で同レベルの充放電特性を示すことを確認している。
同研究チームは今後、今回の研究で扱っていない他の金属や合金を用いた研究に取り組む。また、人工被膜の成分や構造を最適化する研究や、より大容量のマグネシウム金属蓄電池実現に向けた新技術や材料の開発も進める。