次世代型半導体に向けた最先端のトランジスタを開発

Photo: Anton Persson

スウェーデンのルンド大学の研究チームが、動作機能の設定変更が可能で、入力信号の多様な変調を実行できる新しい多機能型トランジスタを開発した。強誘電体ゲート酸化物を用いた、垂直縦型ナノワイヤ構造のトンネル電界効果トランジスタにより実現したもので、電流を遮断しても設定動作特性が保存されるため再設定が不要、また低電圧で作動するのでエネルギー効率が高いという特徴を持つ。次世代無線通信やIoT、量子コンピューターなどの用途に適していると期待している。研究成果が、2023年5月3日の『Nature Communications』誌に公開されている。

歴史的にコンピュータの計算能力や効率は、シリコントランジスタのサイズを微細化することで向上してきた。ところが近年、この方向に沿った開発を続けるためのコストが非常に高くなる段階まで達し、これまでにない量子力学的効果対策のため、開発が減速しつつある。こうした中、少数のユニットで多様な機能を発揮できる再構成可能なトランジスタが大きな注目を集めている。標準的な半導体と異なり、製造された後においてもトランジスタ動作機能を再設定できる特長を持つ。

ルンド大学の研究チームは、強誘電体トンネル電界効果トランジスタ(ferro-TFET)により、再構成可能なトランジスタを創成することにチャレンジした。研究チームはIII-V族半導体の研究に関して世界をリードし、特に、低消費電力化に有効な垂直縦型のナノワイヤ構造のトンネル電界効果トランジスタ(TFET)を提案してきた。

強誘電体材料は、電界を負荷すると材料の両側において正電荷と負電荷が集積して内部分極が形成され、電界の方向を変えると分極方向も転換する。研究チームは、ナノワイヤ構造のTFETに強誘電体ゲート酸化物を導入するとともに、ゲートとソースがオーバーラップした構造を考案した。強誘電体ゲートに電圧パルスを負荷させてナノ分極を転換させることで、トランジスタ動作機能を再構成することに成功した。

その結果、周波数伝送や位相シフト、周波数倍増、信号ミキシングなど、さまざまな方式で入力信号を変調でき、単一トランジスタにおいて多様な機能を搭載できることを確認した。不要な高調波を大幅に抑制できるので、デジタル用途だけでなくアナログ用途に対しても応用可能である。

新しいトランジスタは、デバイス面積あたりの機能密度を高めることができるとともに、電流を遮断してもトランジスタ動作設定が保存されるので、再設定する必要がない。また、非常に低電圧で機能するのでエネルギー効率も高くなる。「トランジスタの微細化が限界を迎える中で、次世代無線通信やIoT、量子コンピュータなど、高密度でエネルギー効率が高い、多機能を必要とするデジタルおよびアナログのハイブリッド回路の開発に貢献できる」と、研究チームは期待している。

関連情報

Cutting edge transistors for semiconductors of the future | Lund University

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