世界的な半導体不足はなぜ起こったか? 半導体業界の動向と転職市場で注目の職種

メイテックネクスト 代表取締役社長 河辺真典氏

ここ1、2年、ニュースなどで「世界的に半導体が不足している」「半導体不足の影響で○○が減産する、完成が遅れる」という話をよく耳にするようになりました。半導体業界に何が起きているのでしょうか。エンジニア専門の転職支援会社で、半導体業界の主要企業とも多数取引があるメイテックネクスト代表取締役社長・河辺真典氏にお話を伺いました。

今回から3回の連載で、半導体業界の現況と半導体メーカーにおけるプロセスエンジニアの仕事内容ややりがい、半導体製造装置メーカーにおける設計開発エンジニア・FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)の仕事内容ややりがい、将来性などについて解説していきます。(執筆:畑邊 康浩、撮影:編集部)

コロナ禍を契機に需要のバランスが崩れ、長く尾を引いている

なぜ最近ニュースなどで「半導体」という言葉をよく見聞きするのか、世界的な半導体不足の背景について、メイテックネクストの河辺社長にお話を伺っていきます。

──コロナ禍に入り、世界的に半導体が不足していると言われていますが、これにはどのような経緯があるのでしょうか。

[河辺氏]新型コロナウイルス感染症が世界的に広まった影響で、自動車の販売が落ち込み、自動車メーカーは一時、生産のブレーキを踏みました。その結果、車載向けの半導体需要が一時、急激に低下したわけです。

一方で、コロナ禍によって急激に需要が高まった製品があります。いわゆる巣ごもり需要やテレワーク、遠隔授業などの対応で必要となった、パソコンやスマートフォン、タブレット、その周辺機器などです。

片や自動車向けの需要が急減し、片やパソコンなどの需要が急騰することによって需給のバランスが崩れました。そのバランスが戻り切らない中で自動車の販売が回復し始め、再び生産のアクセルを踏んだ時に、供給不足が深刻な状況に陥った──というのが、現在まで尾を引いている世界の半導体不足の経緯です。

自動車を大量に生産しているのは東南アジアや北米ですから、それぞれの地域での半導体の増産が自動車の増産に対応できていなかったのです。

元々右肩上がりだった半導体ニーズに、コロナ影響の需要が加わる

[河辺氏]しかし、日本国内の半導体メーカーに対する半導体需要という点で見ると、実は少し様相が異なります。

例えば、代表的な半導体製品の1つであるイメージセンサーは、画像解析・画像処理の能力が向上し、今やあらゆる製品に搭載されるものになっていますので、需要の右肩上がり傾向は、今後も衰えることはないでしょう。

他にも、日本にも工場が多数あるメモリは、需給バランスの調整で価格の変動はありましたが、様々なデバイスにおけるデータのトラフィック量が増え続けると共に、需要も右肩上がりの状況です。

加えて、日本国内には車載向けのマイコン・IC(集積回路)の領域で強みを持つ企業があり、そうした企業は工場の増設および増員を図っています。

このように国内の半導体業界のマクロな状況としては、コロナ禍の影響以上に底堅い需要がある、という前提があります。そこに、グローバルにおけるコロナ影響の需要が上乗せされたという見方ができます。世界各地で半導体の増産が需要増に追いついていない状況を鑑み、地政学的な見地から、台湾の大手半導体受託製造会社(ファウンドリー)であるTSMCの日本工場建設を日本政府が支援しているのも、その流れの一環です。

こうした動向には、半導体製造に必要となる装置をつくる、半導体製造装置メーカーも影響を受けます。特に日本の代表的な半導体製造装置メーカーはグローバルのシェアが高いため、国内外の需要に対応するべく、現在は大増産態勢にあるのです。

新卒や転職希望者の半導体業界への関心が高まる

──現在の半導体業界の転職市場動向について教えてください。

[河辺氏]国内の半導体業界の求人動向についても、コロナ禍によるマイナス影響がなかったわけではありませんが、先にお話ししたような国内のマクロな需要に応じて、求人もコロナ禍以前から今まで、堅調に増えています。今後も業界全体としてこの傾向は続くと考えてよいでしょう。

これまでの半導体業界の新卒、中途の転職動向を振り返ってみると、そこまで人気の高い業界ではなかったように思います。ところがここ1〜2年の好況によって、新卒・中途にかかわらず、半導体業界への関心度は高まっている状況です。今なら、異業種からの転職も十分可能でしょう。

──半導体業界にはどのような企業があるのでしょうか。

[河辺氏]企業の区分としては大きく2つに分けられます。一つは、半導体製品をつくる「半導体メーカー」。もう一つは、半導体製品をつくるためのツールである製造装置をつくる「半導体製造装置メーカー」です。

半導体メーカーには、製品企画・設計だけを行う企業(ファブレス)、他社から請け負って製造だけを行う企業(ファウンドリー)、企画から製造まで一貫して行う企業など、製品開発における対象フェーズによって違いがあります。

また、半導体製品といっても、センサーやメモリ、マイコン・IC、ダイオードやLEDなど様々な製品があり、特定の製品に特化している企業もあれば、車載向けなど特定の用途に強い企業、複数の種類の半導体製品をつくっている企業などがあります。

一方、半導体製造装置メーカーは、半導体を製造するプロセス(工程)のうちどの工程を担うかで違いがあります。半導体の製造には100以上の工程がありますが、ある工程で行う作業、例えば「切断」「研磨」「洗浄」「検査」などによって、対応できる装置は違ってくるのです。

ですから、半導体業界へ転職を考える際には、半導体メーカーなのか製造装置メーカーなのか、そこでどういった種類の半導体製品をつくっているのか、またはどの工程の製造装置をつくっているのかを意識して検討する必要があります。

プロセスエンジニアとFAEの求人が急騰中、FEは未経験可の求人も

──半導体業界にはどのような仕事があるのでしょうか。

[河辺氏]半導体メーカーには、センサーやメモリなどの製品の企画・設計開発を担当するエンジニア、生産プロセスを考えるプロセスエンジニア、評価・解析、検査などを担当するエンジニアなどがいます。

半導体製造装置メーカーにもプロセスエンジニアがいる他、顧客とやり取りして製造装置の仕様決めから装置の納品、導入までを担当するフィールドアプリケーションエンジニア(FAE)、導入の実作業を行うフィールドエンジニア(FE)などの職種があります。

これらの職種の中で、現在の半導体業界の好況によって採用ニーズが急騰しているのが、プロセスエンジニアとFAE、FEといった職種です。ただし、業界全体でニーズが高まっている状況下では、企業は既存の社員をなかなか手放しませんし、同業種からの転職希望者をあてにしていては、厳しい競争から採用もままなりません。

そこで現在は、「半導体業界経験者でなくても可」「理系のバックグラウンドがあり、物理現象に興味があれば可」といった具合に、プロセスエンジニアやFAEの採用要件が緩和される傾向にあります。また製造装置メーカーのFEについては、学歴すら問わない求人も多数出てきている状況なのです。

次回は、半導体メーカーにおいて特に求人ニーズが高いプロセスエンジニアという職種にフォーカスし、仕事内容ややりがい、転職の可能性、求められる知識・スキルについてご紹介します。


河辺 真典(メイテックネクスト 代表取締役社長)

生産技術エンジニアとして5年・リクルートエージェントでエンジニアの転職紹介を8年経験しました。
メイテックネクストのコンサルタントは、転職支援のノウハウと業界・技術知識の両方に長けております。
その上で、単に転職先を決めるだけでなく、
転職先でご活躍いただく「失敗しない転職」をご支援するように心がけております。



取材協力

メイテックネクスト


ライタープロフィール

畑邊 康浩
編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集に携わった後、人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。2016年1月からフリーランス。主にHR・人材採用、テクノロジー関連の媒体で仕事をしている。


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