「仕事は楽しく!」 ひらめきのあるエンジニアになりたい——YKK AP 小倉千裕氏

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単に四角いだけのような、窓やドア。実はそのフレームなどに、断熱性や水密性、強度、安全性、使い勝手など、私たちの生活を快適にしてくれる多くの技術が詰め込まれているそうだ。YKK AP開発本部 商品開発部 東京商品開発室の小倉千裕さんは、その細かい設計をしている。管理職として指導する役割も担い、家では3歳の息子さんの子育て中でもある小倉さんには、「ものづくりが好き」という純粋な思いがある。(撮影:藤井 慎)

見えない部分に技術がたくさん

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部活ではバドミントンをしていた小倉さん。「時間ができたら何か始めたい」

——窓やドアの設計といっても、仕事の内容をイメージしにくいのですが。

そうですよね。普通に生活の中で使っていても分かりませんし、私も入社するまで知りませんでした。

たとえば窓のフレームの内部は、複雑な空間に区切られていて、素材や板の厚み、内部構造などによって断熱性や強度などを高めています。重たい窓をできるだけスムーズに開け閉めでき、かつ水が入ってくることがないように、レールの部分も複雑な作りをしています。性能やデザインだけでなく、予算や製造のしやすさも考えながら、設計や素材の選定、図面上で性能シミュレーションしたり現物で検証などをすることが、私のメインの仕事です。

——現在はどのような開発に携わっていますか。

ハウスメーカー向けの商品開発です。ハウスメーカーが販売する家のコンセプトやリクエストをお聞きして、商品価値が高まるような設計を考えたり、営業部門と一緒にメーカーに提案をしたりしています。

特にいま力を入れているのは、窓のフレームに樹脂を使用するものです。金属であるアルミよりも熱を伝えにくいので、断熱性能をより高めることができます。

自分の設計が形になると、苦労も吹っ飛ぶ

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「ものづくりが好き」が、がんばりの源泉。

——大学は建築学科だったそうですね。

はい。もともと理科や数学が好きで、ぼんやりと理系に進みたいと思っていましたが、家の図面が引けたら楽しいだろうな、かっこいいなと思って、建築学科に入りました。研究テーマに選んだのは環境工学で、今の仕事にもつながるのですが、サッシや建物の外皮が室内にどういう影響を与えるかを研究しました。

私が就職活動をしたのは就職氷河期といわれる時期だったので、ハウスメーカーから、建材、ユニットバスやトイレ、キッチンなど、建築に関わるメーカーをたくさん受けました。家そのものでなくても、何らかの形で建築やものづくりに携わりたいという気持ちは、ずっとぶれませんでした。

——この仕事のやりがいは。

自分で図面を引いたものが形になって、通りすがりの家に使われていたり、カタログに載っていたり、テレビコマーシャルで取り上げられたりすることが一番のやりがいですね。

作りあげる過程はすごく大変ですが、出荷が順調だと聞いたり、お客様が喜んでくださったりすると、とてもうれしくて、それまでの苦労は全部吹っ飛ぶという感じです。

——母親になったことで、意識に変化はありますか。

特に意識してはいませんが、取っ手や鍵の高さなど、小さい子どもが開閉しても危なくないかという観点は、根底では持っているように思います。

子どもの顔を見ると、仕事を忘れる

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「自分の家を建てるときに、自分で開発した商品を使えたらうれしい」

——現在は3歳の息子さんの子育て中ですが、一番大変なことは。

毎日嵐のように時間が過ぎ、夜10時ごろには疲れて子どもと一緒に寝てしまう日々で、肉体的にも大変ではありますが、精神的な部分の方が大きいかもしれません。

これまでは男性と同じように仕事をして、それなりにキャリアも積んできましたが、今はどうしても出張に行けないですし、残業をしたくでもできません。一方では、なるべく子どもと一緒にいたい。そのジレンマがあって、割り切りが一番大変ですね。

——だれかに悩みを相談することはありますか。

同期の女性社員や夫に話すことはありますね。私の母も働きながら子育てをしてくれたので、同じ立場として相談に乗ってもらいます。母が子育てしていた時代は、今と状況も違いますから、大変だっただろうな、すごいなと本当に尊敬しています。

去年からは社内のSNSに「ワーキングママ」というコミュニティができました。子育てのことや、社内の制度をどのように使うといいかなど、情報交換をしています。みんなが同じように悩んでいると思うと、とても心強いですね。

あとは時間の都合がつけば、社内のママさんたちとランチ会をすることもあります。

——趣味でリフレッシュ……という時間はなさそうですね。

出産前は週2~3回ジムに通っていたのですが、今は無理ですね。

でも子どもがいると、気持ちを切り替えざるを得ないので、逆にいいのかもしれません。子どもが生まれる前は、家でも仕事のことを考えてしまうこともありましたが、今は家ではあまり考えなくなりました。子どもの顔を見ると、仕事のことは忘れられますね。

理解があって働きやすい

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入社直後は黒部勤務で、玄関引き戸の開発。「無我夢中だった」

——ワーキングママにとって、働きやすい職場ですか。

私の部署は、現在子育て中・妊娠中の人が、8名もいることもあって、かなり理解があって働きやすいと思います。当然その立場になってみないと、分らないことも多いと思いますが、上司もどうしたら働きやすいかと、いろいろ考えてくれています。

——会社のサポート制度では、どのようなものを利用していますか。

産休、育休はもちろん、以前は時間短縮勤務も利用しました。よく利用しているのは有給休暇です。以前は半日単位だったのですが、今は1時間単位で取得できるようになっています。子どもを病院に連れて行くときなど、少しだけ遅れるという場合には、とても使いやすくて便利です。

——ではご主人のサポートは。

最近はかなり協力的で、何をすると私が助かるか、分かってくれたみたいです。

夫も同じ会社の人間なので、私の立場や状況をよく理解してくれているのは大きいですね。私が残業できるように、週に1~2回は、保育園のお迎えにも行ってくれます。

任されて、育てられた

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ご主人は徐々に協力的になってきたとか。教育はご主人にも必要?

——これまでに影響を受けた人は。

入社4年目から12年間ずっとお世話になっていた上司です。当時はそれほど知識も技能もなかった私に対して、いろいろ教育し、仕事も任せてくれました。YKKグループのコアバリューに「信じて任せる」という言葉があるのですが、今思えば、そういう育て方をしてくれたおかげで、少しずつ成長できたのではないかと思います。「仕事は楽しくやるものだ」ということも教えてくれました。この上司に出会っていなかったら、仕事を続けていたかどうか……と思うくらいです。

——2014年秋に管理職に昇格なさったそうですね。

今度は「任せる」立場になったわけですが、なかなか難しいものですね。いろいろな人に相談したり、自分が任されて育てられたことを思い出して、「私が思うよりできるはず」と考えています。

昇格させていただいたということは、期待していただいているのだろうと思いますので、自分らしくやっていきたいと思っています。私を見たみんなが「ああいうやり方もあるんだな」と、自信を持ってもらえるような、ロールモデルの一人になれればと思います。

——仕事をするうえでのポリシーは。

上司が教えてくれた「楽しく仕事をする」ということです。でも最近は時間に追われて、忘れがちになっていますね。これを機会にもっと楽しむことを思い出したいと思います。

女性の視点、親の視点は強みになる

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たまに一人で買い物に。忙しい日々の合間の息抜き。

——女性に向いていると思う点はありますか。

窓のフレームの断面の図面を引くなど、細かい作業がとても多いので、女性向きという面もあるかもしれません。

また実際に家を建てるときは、おそらく女性が主導権を握ることが多いと思います。デザインや使い勝手などに、女性の視点、子どもを持つ親の視点を盛り込めたら、商品の強みにもなると思います。

——これからどういうエンジニアになりたいですか。

私の仕事には創造力が必要です。基本的な技術は今までの積み重ねがありますが、基礎は押さえながらも、常に新しいものを考えていかなければなりません。難しいことですし、今の私の課題でもありますが、創造力にもっと磨きをかけて、ひらめきのあるエンジニアになりたいと思います。

——最後に、エンジニアを目指す女性にメッセージを。

小さいころから工作が好きだったという方もおられると思います。私も理科と数学が得意で、なんとなく家の図面を引けたらかっこいいなという程度で始めました。どういう形でも、ものづくりに関われれば、とてもやりがいを感じられると思いますので、あきらめずに進んでいただきたいと思います。

自律的に「ワーク」と「ライフ」をマネジメントし、キャリアを積める環境

YKKグループの女性が活躍する職場づくりの取り組みは、1998年の女性活性化委員会・小委員会活動からスタートした。2004年には、管理職候補に対する女性リーダーシップ研修、2011年には、女性社員が女性活躍推進を考える「なでしこプロジェクト」を発足させた。

YKK APは2012年4月に人事部 ダイバーシティ推進室を立ち上げ、男女を問わず、すべての社員が力を発揮できるよう、取り組みを進めている。同時に、社員が自らの人生設計に合った働き方を主体的に選ぶことを主旨とする「働き方“変革への挑戦”プロジェクト」では、ワークライフマネジメントに関する制度、施策を検討。「在宅勤務制度」、「フレックスタイム勤務制度」、小倉さんも「便利」と語っていた、有給休暇を1時間単位で取得できる「時間単位年休」のほか、ボランティア休暇も導入している。

仕事と家庭の両立を支援する制度には、子どもの看護や行事などに利用できる「子育て看護休暇」や、条件つきながら最長3歳の誕生日まで延長できる「育児休業制度」、また復職時の不安軽減のため、育児休業中の社内掲示板閲覧、育児や介護などで退職した社員の再雇用機会を創出する「キャリアリターン制度」がある。これらの施策には、働き続けられるよう支援するだけでなく、仕事では成果を発揮することを意識付ける目的がある。

同社では、現在数%である女性管理職を、2020年度までに4倍に増やす方針。2014年度からは、女性の管理職増加を目的とした「キャリア開発支援プログラム」を実施している。上司以外の先輩社員(メンター)が後輩を支援する「メンター制度」、時短勤務女性社員を対象とした「両立支援セミナー」、将来のキャリアを考える「にじいろ研修」など、さまざまな形で実践している。

YKKグループが目指すのは、社員が自律的に働いて力を発揮する「森林集団」。それは、年齢や性別、学歴を問わず、多様な背景、価値観を持つ社員が、会社の各施策を活用しながら、自ら「ワーク」と「ライフ」をマネジメントし、キャリアを積んでいくという姿なのだ。

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