ソフトウェアテスト手法の研究開発で、顧客のソフトウェア製品の品質向上を支える──ベリサーブ 須原 秀敏氏

テスト業界では、開発者以外がテストを行う第三者検証を専門とする企業もあり、ソフトウェアテストに関する豊富な知見と専門性を持っていることから、外部のテスト専門企業へ委託することも一般的になりつつある。ベリサーブは日本におけるソフトウェアテストの先駆け的な存在で、特に高い信頼性が要求される自動車業界での実績を強みとしている。

研究企画開発部 技術戦略課 課長の須原 秀敏氏は、新卒でベリサーブに入社。ソフトウェアテストの現場を経て、現在はR&D部門で効率的かつ効果的なテスト手法の研究開発に従事し、顧客製品・サービスの品質向上に取り組んでいる。(執筆:杉本 恭子 写真提供:株式会社ベリサーブ)

--まず、貴社の事業についてご紹介いただけますか。

[須原氏]ベリサーブは単にソフトウェアテストを行っているだけではなく、お客様の製品・サービスの品質を高めている会社である、と私は思っています。開発のプロセスごとに必要となるテストを当社がお手伝いすることで、利用するエンドユーザーがより満足できるよう、お客様と一緒に作り込む仕事です。

例えば、お客様の要望がシステムレベルの品質向上であれば、テストベースとしては基本設計書を用いますが、品質を高めるためにはそれだけでは十分と言えません。明文化されていない暗黙の要求、過去の不具合などもお客様とコミュニケーションを取りながら把握し、テストに落とし込んでいくのです。

--須原さんは新卒で入社されたとのことですが、なぜベリサーブを選んだのでしょう。

[須原氏]大学の工学部で自然言語処理を研究しているうちにソフトウェアに興味を持つようになり、ソフトウェア業界で働きたいと思うようになりました。会社をいろいろ探す中でベリサーブを知り、ソフトウェアテストという専門性のある仕事を行っているところに惹かれたのです。

2010年に新卒で入社し、2015年までは車載分野のソフトウェアテストを担当。その後、車載専門のR&D部門を経て、2021年から全社横串のR&D部門である研究企画開発部 技術戦略課に異動しました。

--現在須原さんはどのような仕事をしているのですか?

[須原氏]現在所属している研究企画開発部では、ソフトウェアテストの領域における新規サービスの開発や、テストそのものをより高度化する研究開発をミッションとしています。例えば、テスト設計のプロセスを自動化するようなモデルベーステスト(Model Based Testing:MBT)の研究や、現場のエンジニアの作業効率を改善する技術やツールの開発と実装、他にもAIの品質保証やユーザビリティの研究なども行っています。それらと並行して、2022年4月からベトナムに赴任していて、現地の開発組織の立ち上げにも携わっています。

--研究しておられるMBTという手法について、もう少し詳しく教えてください。MBTはすでにソフトウェアテストの領域では一般的なものなのでしょうか?

[須原氏]MBD(Model Based Development)があればMBTが生まれるのは必然ですし、言葉としては以前からありました。しかし、実際には考え方自体は使っていても、MBTであると気づいているケースが少ないのが現状です。あくまで私の感覚ですが、業界での使用率(MBTと明示して使用している率)は1%にも満たないのではないでしょうか。

MBTの大きなメリットは、属人性の排除、つまり誰でも熟練者と同じように優れたテストを作れることです。さらにMBTによってテスト設計が自動化できると、CI(Continuous Integration)、CD(Continuous Delivery)のパイプラインの中にテスト設計からテスト実行を簡単に組み込むこともできるので、非常に将来性のある技術だと思います。

ベリサーブとしては社内的にMBTを推進することを宣言していますし、私個人としても、社内業務のテスト設計のうち50%程はMBTにしたいと考えています。私たちR&D部門は、ソフトウェアテストの品質を高めるために必要な技術を追い求めていますが、その技術を現場で使ってもらうための教育やプロセス、誰もが使えるツールに落とし込むことがとても難しいところですね。

ベトナム赴任は予想外だったという須原さんだが、「新たな技術を広めるためにも組織づくりは大事」と積極的に取り組んでいる

外部の活動にも積極的に参加し、社外でも戦えるエンジニアに

--須原さんは、社外でもさまざまな活動に参加しておられますね。

[須原氏]はい。ISO/IEC JTC 1(国際標準化機構と国際電気標準会議の合同技術委員会)のSC7 WG26のソフトウェアテストの専門委員会、JSTQB(認定テスト技術者資格の運営組織)の技術委員会など、いくつかの団体の活動に参加しています。私は社内だけでなく、社外でも戦えるエンジニアになりたいと考えていたので、自分にとって良い機会になると思い、積極的に参加しています。

--JSTQBの技術委員会ではどのような活動をされているのですか?

[須原氏]JSTQBは、国際ソフトウェアテスト資格認定委員会(International Software Testing Qualifications Board:ISTQB)の加盟組織です。私はJSTQBの技術委員会で、JSTQB認定テスト技術者資格の試験問題のベースとなるシラバスの翻訳や試験問題の作成などを担当しています。JSTQB認定テスト技術者資格はAdvancedとFoundationの2つのレベルがあり、国内では約2万人が取得している、ソフトウェアテストに関する資格です。

--JSTQB認定テスト技術者資格を取得することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

[須原氏]ソフトウェアテストの技術を体系的に学べ、エンジニアとして確実にレベルアップできます。またJSTQB認定ソフトウェアテスト技術者資格は海外でも通用する資格なので、自身のキャリアアップにもつながると思います。ベリサーブ社内でも取得を推奨しています。

私自身は、資格取得に向けて学んだことを通じて、みんなが共通言語で議論できるようになればという思いで、活動に取り組んでいます。

会社全体に影響を与える仕事にやりがいを感じる

--須原さんにとって、仕事のモチベーションになっていることは何ですか?

[須原氏]全社横串のR&D部門に移ったことがキャリアの転機となり、自分の仕事が会社全体に対して影響を与えられることが、モチベーションになっていますね。社員の仕事のプロセスの改善や、お客様の製品をより高品質にする技術を開発することに、やりがいや高揚感があります。

私自身が今後磨くべきスキルは、今後はやりそうな技術や、会社から求められそうな技術を見極める力だと考えています。その技術を見極め、社内で活用できるか検討し、実装する。このサイクルを高速で回し続けることができると会社への貢献度も高まりますし、自分の強みにもなると思います。

--今後はやりそうな技術、会社から求められそうな技術には、どのようなものがありますか?

[須原氏]例えば、最近の傾向ではアジャイル開発を採用するお客様が増えており、ソフトウェアテストにもアジャイル開発に伴走できるスピード感と柔軟性が求められています。

また、AIが世の中に普及するにつれて、AIの誤判断や倫理といった問題も出てくるので、そういったAIの品質をいかに保証していくか、どうやって人間がAIを受け入れられるようにするかということも大事になってきます。AIに関する案件はまだそれほど多くはありませんが、この領域において、テスト/品質保証の果たす役割の重要性も高まるのではないかと考えています。

--最後に、ソフトウェアテストに関わるエンジニアに求められる能力、スキルについて、須原さんのお考えを聞かせてください。

[須原氏]エンジニアに求められるのは、構造化する能力と抽象化と具体化を行き来できる能力だと思います。

例えば、ソフトウェアテストの領域ならば、テスト実行者からテスト設計者になるためには、テストの全体図を描ける能力、つまり全体を俯瞰し構造化できる能力が非常に大事です。また、複数の事象や情報を一般化した知識に変え、その知識を具体化する。この繰り返しこそがエンジニアとしての経験や知見のため方だと思うので、抽象化と具体化を行き来できる能力も必要になるでしょう。

取材協力

株式会社ベリサーブ


ライタープロフィール
杉本 恭子
幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。心理カウンセラー。


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