東大など、格子歪みを利用し配位構造の異なる酸窒化物結晶の作り分けに成功

東京大学大学院理学系研究科の長谷川哲也教授、廣瀬靖准教授、東北大学大学院理学研究科の岡大地助教らの研究グループは2017年3月29日、金属酸窒化物の単結晶薄膜を合成することで、金属イオン周囲の酸化物イオンと窒化物イオンの配位構造の制御に成功したと発表した。

同研究グループと、神奈川科学技術アカデミー、奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学、高輝度光科学研究センター、名古屋工業大学との共同による研究成果で、可視光を吸収可能な強誘電体など、新たな光・電子機能材料の開発につながるものと期待されるという。

今回、同研究グループでは、複合アニオン(陰イオン)化合物の1種であるタンタル酸窒化物の単結晶薄膜を合成し、薄膜と基板の化学結合を利用して異方的な圧力(格子歪み)を印加しながら結晶成長させた。その結果、格子歪みの大きさを変えることで、最安定でcis型の配位構造のみからなる結晶と、準安定なtrans型の配位構造を含む結晶を作り分けることに成功した。

原子の配列を制御する技術は優れた材料の開発に不可欠だが、有機化学や錯体化学では様々な分子が合成されているが、固体結晶では合成できる化合物が少ない。その中で、結晶中に複数種のアニオンを含む複合アニオン化合物は、金属イオン周囲のアニオン種の幾何学的な配置(配位構造)により性質が大きく変化する特徴を持つ。しかし配位構造の異なる結晶を作り分ける方法は確立されていなかった。

今回の研究で用いられた、複合アニオン化合物の1種であるタンタル酸窒化物は、酸素と窒素のアニオンが結晶格子中の等価な位置を占めることができるため、配位構造にいくつかのパターンが可能だ。ABO2N(A、Bは金属元素)の組成を持つペロブスカイト型構造の酸窒化物では、cis型、trans型の二通りの配位構造が存在し、異なる物理・化学的性質を示す。

同研究グループでは、原子を一層ずつ積み重ねて単結晶薄膜を合成するエピタキシー技術を活用。タンタル酸窒化物より結晶格子が小さいチタン酸ストロンチウム基板上に薄膜を合成して面内(横)方向に圧縮応力を印加し、結晶格子を歪ませることでtrans型の配位構造を安定化できると考えたという。

酸窒化物薄膜の格子の大きさを決めるスペーサーとなる金属元素として、イオン半径の小さなカルシウム(Ca)と半径の大きなストロンチウム(Sr)を含む薄膜を合成。両者の割合を系統的に変えたところ、CaとSrを50%ずつ含む薄膜で5%の大きな格子歪みが印加できた。これを観察した結果、格子歪みの印加に伴ってtrans型構造の割合が増えることが明らかになった。

これらの結果は、酸窒化物結晶中の配位構造を、印加する格子歪みの調整によって制御できることを初めて実証するものだという。trans型タンタル酸窒化物は可視光を吸収可能な強誘電体であることから、強誘電体の電気分極を利用した太陽電池や光センサーなどの高効率化につながる可能性がある。また、歪みを利用した配位構造の制御法は、酸フッ化物や酸水素化物など他の複合アニオン化合物にも応用可能で、新たな光・電子機能をもった固体材料開発への展開も期待されるとしている。

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