京都大学医学研究科 高橋英彦准教授らの研究グループは2017年4月5日、ギャンブル依存症の神経メカニズムについての研究結果を発表した。ギャンブル依存症では、状況を理解し柔軟にリスクに対する態度を切り替える能力に障害があることを解明した。
同研究グループでは、状況に応じて最適なリスクの取り方を切り替える必要のあるギャンブル課題を考案し、ギャンブル依存症患者のリスクへの態度に特徴が見られるかどうかを実験により検討した。また、課題を実行中の脳活動を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて調べた。
実験はギャンブル依存症と診断された男性患者21名と健常男性29名を対象に行われた。画面にハイリスク・ハイリターンと低リスク・低リターンの2つのギャンブルが次々と表示され、参加者はこの2つから1つを選択して、最少ポイント(ノルマ)をクリアすれば次のステージに進むことができる。参加者はなるべく多くのステージをクリアすることが求められる。
この課題を健常者に実施した先行研究では、ノルマの低い条件から高い条件に移行するにつれて、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強まることが確認されていたが、今回患者にも同様の傾向が確認され、また健常者と患者全体の選択パターンに差はなかった。
そこで、参加した患者の中で未治療あるいはギャンブルをやめている期間が短い患者を選択して同様の実験を行なったところ、そのグループは健常者と比べ全体的にハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いことがわかった。また、特に低ノルマ条件でハイリスク・ハイリターンを選択する傾向があり、さらに治療期間が短い患者ほど低ノルマ条件で不必要にリスクをとる傾向も見られた。これらは、健常者が柔軟にリスクの取り方を切り替えているのに対し、未治療またはギャンブルをやめている期間が短い患者は、その切り替えが上手くできていないことを示しているという。
これまでのfMRIによる脳活動の結果で、ノルマの厳しさを正しく認識するのに必要なのは背外側前頭前野、前部帯状回、島皮質で、リスク態度の切り替えには背外側前頭前野と内側前頭前野の結合が重要なことが明らかになっているという。
今回の研究により、ギャンブル依存症患者は背外側前頭前野の活動が低下していること、背外側前頭前野と内側前頭前野の結合が弱い患者ほど、ギャンブルを絶っている期間が短く、また低ノルマ条件でハイリスク・ハイリターンを選択する傾向が強いことがわかった。
今回、ギャンブル依存症の神経基盤が明らかになったことで、依存症の病態の理解や新たな治療法開発につながることが期待されるという。同研究グループでは、今後、柔軟なリスク態度の切り替えの障害を改善させるため、脳に直接介入するニューロモデュレーションの開発を目指す。また、柔軟に戦略や視点を切り替えられない障害は他の精神疾患でも認められるため、柔軟性の向上を目指す方法の開発も目指すという。