大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授らの研究グループは、次世代型蓄電デバイスであるリチウム-硫黄二次電池向けに、硫化リチウムベースの固溶体と硫化物固体電解質を組み合わせた正極を開発し、正極の容量と寿命を飛躍的に改善させることに成功した。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発・特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)の一環としての研究で、同大学とJSTが2017年5月24日に発表した。
従来のリチウムイオン電池にかわる次世代型蓄電デバイスの開発が急がれる中、電極が軽量のリチウム(Li)と硫黄(S)から構成されているリチウム-硫黄二次電池は、リチウムイオン電池の5倍以上の高い理論エネルギー密度を持つことで注目されている。しかし、電極反応時に中間反応生成物である多硫化リチウムが有機電解液に溶出し、電池容量が劣化するという問題や、Li+イオン貯蔵材料の硫化リチウム(Li2S)自身が絶縁体であるため可逆容量が小さく、Li2S正極材料の高容量化が必要といった課題があり、実用化に至っていない。
今回の研究では、これらの課題解決のため、電解質として硫化物固体電解質と、従来のLi2S単体と比較して高容量を示すLi2Sベース固溶体を組み合わせた正極を開発。これまで報告されているLi2S正極の中で最も高い容量と優れたサイクル寿命を達成した。
これまでサイクル特性改善のために硫化物固体電解質が利用されており、比較的高いサイクル特性を有することが報告されていたが、容量の増大は進んでいなかった。そこで今回、新たなアプローチとして、小さい容量の原因がLi2Sの低いイオン伝導性であると考え、Li2Sとハロゲン化リチウム(LiCl、LiBr、LiI)から構成されるLi2Sベース固溶体を作製。Li2S自身の高イオン伝導化を検討した。
そして、Li2S-LiCl、Li2S-LiBr、Li2S-LiI固溶体と固体電解質を組み合わせた正極を全固体電池へ適用して充放電特性を調べた結果、Li2S-LiI固溶体の可逆容量が最も大きく、Li2S単体を用いた場合の2倍以上、Li2Sの理論容量と同等の1100mAhg-1以上の容量で作動することがわかった。
また、Li2S-LiI固溶体と硫化物固体電解質を組み合わせた正極の長期繰り返し充放電試験(2000サイクル)を行った結果、これまで報告されているLi2S正極が1000〜1500サイクル後に初期容量の30〜60%しか維持していなかったのに比べ、この正極は2000サイクルの間容量劣化しなかった。
今後同研究グループでは、実質的に利用できる電池のエネルギー密度を増大させるため、正極層の厚膜化、軽量化を目的とした固体電解質層の薄膜の作製、高エネルギー密度の負極材料を開発。それらを組み合わせて、従来のリチウムイオン電池の2倍のエネルギー密度を持つ全固体リチウム-硫黄二次電池の構築を目指すという。