遺伝子治療に光明か――米大学、遺伝子欠陥の効果的な修復方法を発見

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肥大性心筋症を起こすことが知られている遺伝子変異を持つ提供者からの精子と、遺伝子修復酵素を同時注入した後の受精卵の成長過程。

ヒトの受精卵の段階で遺伝子を修復し、遺伝性疾患の出現を防止できる手法が、オレゴン健康科学大学(OHSU)の研究チームにより初めて成功となった。出生時につきまとう遺伝病への不安から人類を解放する可能性がある画期的な研究成果と呼べる一方で、ヒト遺伝子の改変についての倫理的問題も提起するものだ。研究成果は、『Nature』誌に8月2日付で公開されている。

Shoukhrat Mitalipov博士が指導する研究チームは、第3世代のゲノム編集ツール「CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)」を活用している。「Cas9」と呼ばれる酵素を用いるCRISPR- Cas9法では、DNA二本鎖を切断してゲノムの任意の場所の削除・置換・挿入ができる。研究チームはCas9を使い、正常な遺伝子をテンプレートにして突然変異遺伝子の特定のDNA配列と置換。それにより遺伝子の欠陥を効果的に修復できることを発見した。

研究チームの実験では、心不全や突然死をもたらす肥大性心筋症を起こす変異遺伝子に着目し、この変異を持つ提供者からの精子と、変異を持たない遺伝子をテンプレートとする修復酵素Cas9とを、変異のないドナー卵母細胞に同時に注入した。すると受精開始とともに遺伝子修復プロセスがスタートし、受精卵の遺伝子は修復され、そのすべての細胞が変異を持たないDNAを持っていることを確認した。

これは遺伝における「モザイク」として知られる、ゲノム修復に関する重要な問題を克服したことを意味する。モザイクは、多細胞の胚において修復を試みた場合、全ての細胞が修復されず、変異を残した細胞と混在している状態のことだ。これでは成長した胚が変異を含むため、最終的に胎児のDNAに入り込むことになる。本研究では、単細胞の卵母細胞に修復酵素と精子を同時注入することで、胚の全ての細胞に変異のないDNAを持たせることに成功した。

今回の発見は、遺伝性疾患を引き起こす遺伝子変異を確実に修復し、疾患が将来世代に受け継がれることを防ぐことができるものだ。OHSUのDaniel Dorsa副学長は、「この研究は、生殖細胞系の遺伝子修復の安全性と有効性を確保するのに必要な知見を与えてくれた」とする一方で、「この技術を臨床試験に進めるためには倫理的な検討と幅広い議論が必要だ。それを踏まえてこそ、人類の未来のためにヒトの遺伝子を変えるべきかどうかという、極めて重大な疑問に答えることができる」と述べている。

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