矢野経済研究所は2017年9月25日、国内セルロースナノファイバー(CNF)市場の動向調査の結果を発表した。調査期間は2017年5月~7月。
CNFは、植物細胞の根幹を構成するセルロース繊維を細かくほぐした極微細な繊維状物質だ。鉄よりも強くて軽いなど、優れた特性を持つ素材として注目されている。
今回の調査結果によると、国内でのCNFの研究開発は2014年以降政府主導による産官学連携での展開が行われ、実用化に向けた取組みが進められているという。しかし、2017年7月時点で実際にCNFを使用した製品は、ボールペンインクや紙おむつ、ペーパークリーナー、ヘッドフォンステレオ振動板など一部の製品にとどまっている。また生産量全てが実際の製品に使われているわけではなく、大部分はサンプル供給であると見られるという。
国内業界では、CNFの事業化と市場立ち上がりのスピードは速いとは言えない。しかし2016年から2017年にかけて、参入メーカー各社のパイロットプラントに加え、商業生産を目的とした量産プラントの稼働も始まり、2017年中に新たに稼働あるいは稼働予定の量産プラントの生産能力は合計640t/年、またパイロットプラントでも40t/年の稼働が見込まれるという。この結果2017年末時点の国内CNF(年間)生産能力は880t/年の見込みとなり、市場拡大のネックの1つであった生産/供給能力の限界はひとまず解消されると見ている。
利用用途の面を見ると、樹脂複合材料では、まず自動車構造材としての利用が期待されている。しかし、金属素材代替となるには、剛性や耐衝撃性など安全性にかかわる性能やデザイン/外観にかかわる特性の面でさらに研究開発が必要で、ハードルは高い。一方、既存の樹脂材料をCNF複合材で代替することは比較的早く実用化が期待できるとする。
またフィルム、シートでは、要求性能やフィルムの品質などの標準が確立していないフレキシブルディスプレイのガラス代替での展開が有望と見る。多孔性シートでは、フィルターの網目構造の孔径をナノサイズで制御できる材料はCNFの他にはなく、空気清浄用濾紙(エアフィルター)や繊維強化プラスチック(FRP)の芯材としての採用が期待されるとする。さらに、機能性添加剤としては、化粧品、食品、インク/塗料の増粘剤/分散剤用の開発が進められている。
CNFの将来展望については、CNFを使用した製品が市場に出回るには、今少し時間がかかると見る。CNFはフィルムや不織布などを除き単体で使用されるケースは少なく、樹脂や繊維などと複合化することで強度アップや軽量化などを実現する。炭素繊維などと同じく、複合化にこそ用途/市場拡大の芽があり、樹脂や繊維、溶剤などと「いかに混ぜやすくするか」というテーマでの開発が課題の一つとなっているとする。
今後さらに用途開発の幅を広げるためには、CNFメーカー各社は、樹脂や化学品などCNFを直接使用するユーザー企業との共同開発や、さらにその先の川下メーカーとの連携も必要だとし、業種を超えた取組みが求められるとしている。