SNS「mixi」を提供するミクシィには、人と人をつなぐサービスなどを通じて「新しい文化を創りたい」という想いがある。同社が提供する「モンスターストライク」などのゲームアプリもその想いをベースに作られ、リアルな友達や家族と一緒にワイワイ楽しんでほしいというメッセージを込めているという。
今回、インタビューに答えてくれたミクシィの中山里紀さんは、行政向けの業務システム開発からキャリアをスタートし、現在は対戦ゲームアプリ「ファイトリーグ」の開発マネージャー。楽しくつながるサービスのあり方、メンバーや自分の将来像に、真剣に向き合っている。(執筆:杉本恭子、撮影:水戸秀一)
正解がなく、世にないニーズをつくり出す仕事
――現在のお仕事を紹介してください。
タッグバトルエンターテインメント「ファイトリーグ」の開発マネージャーを務めています。
現在はエンジニアとしての開発実務はあまりなく、マネージメントの仕事が9割ぐらいを占めています。どうしても手が足りないときや急を要する場合などは、実装を担当することもあります。
当社がリリースしたゲームアプリ「モンスターストライク」は4人で協力してプレイするゲームですが、「ファイトリーグ」は2人でタッグを組んで対戦するゲームです。当社にとっては対戦ゲームを開発するのは、ファイトリーグが初めてになります。
また「モンスターストライク」は国別にサービスを提供していますが、「ファイトリーグ」は国境を越えて世界中のプレイヤーをマッチングできるように工夫しました。
「オフ会」が各地で盛んに開かれるほど、コミュニティが広まっているのもファイトリーグの特徴でしょう。
――ゲームを開発する楽しさ、難しさは何ですか。
ゲームの開発には正解がなく、世にないニーズをつくり出すのが私たちの仕事です。
そこが楽しさではありますが、プロデューサーや開発チームが「面白い」と思っても、その面白さがユーザーに伝わるとは限らない難しさもあります。決まった要件がない中で、常に新しいもの、喜んでもらえるものを追い求めて、日々開発や改善に励んでいます。
業務システムの開発から一転、ゲーム業界へ
――高校卒業後は大学ではなく、高等専門学校に進まれましたね。
父の影響で小さいころから自動車が好きだったので、機械などに抵抗はありませんでした。ただ、もともとエンジニアになりたかったわけではありません。得意科目も社会と英語でした。
それでも「将来的には大きな企業で働きたい」と思っていたので、そこへの近道だと思って技術を身に付けられる高専へ進むことにしました。大学に4年通ってから就職しても、女性は結婚や出産などで一時的にキャリアが途絶えてしまいます。高専に進んで大卒よりも2年早く就職して、キャリアをできるだけ早くスタートさせたいとも考えました。
高専での専攻は制御情報工学で、電気工学や機械工学を中心に学びました。アセンブラやC言語を多少かじったくらいでしたが、私は比較的得意でした。
――キャリアのスタートは、行政向けのシステム開発だそうですね。
私は福岡出身で、高専卒業当時は「地元に残りたい」という気持ちが強かったです。それで地元企業で好きなプログラミングを仕事にできる会社、かつ将来の結婚や出産を考えた際に働きやすい環境や制度が整っている会社を選びました。
最初の仕事内容は、地方自治体向け業務パッケージの開発。選挙システムや共通基盤を主に担当しました。
――その後まったく異なるゲームの業界に進まれましたよね。なぜその道を選ばれたのでしょうか。
ゲームやWebの開発をしたかったというより、後のキャリアを考えての選択でした。
最初の会社での仕事は、必要とされる知識が公職選挙法などの法律にかなり偏っていたので、「他の会社に転職したらエンジニアとして通用しなくなるのではないか」という不安がありました。
当時はCOBOLやJAVAしか習得できておらず、「エンジニアを続けるのか、まったく違う仕事に移るか」とすごく悩みました。悩んだ末に、未経験でも受け入れてくれ、技術力も伸ばせそうな県内のwebソーシャルゲームの会社へ、27歳の時に転職しました。
要件に沿って設計する業務システムとは、文化も仕事の仕方も違うので最初は戸惑いました。開発のスピード感もまったく違いますし、24時間サービスを提供し続けることになります。特にサービスのリリース直後などは夜中も気が休まらないという経験を初めてしました。必要とされる知識も異なるため、通勤時間等の空き時間に技術書を読んでは、業務時間に実装するという努力の繰り返しでした。
マネージャーになって、求められることの幅が広がり視野も広がった
――福岡を離れてミクシィに転職したのは、ゲームの開発が楽しかったからですか?
確かに楽しいですが、特にゲームの開発にこだわっていたわけではありません。
以前の会社では、サーバー側もクライアント側も含めていろいろな立場や業務を経験できたので、「自分の持っている経歴をすぐに生かすなら、次もゲームに携われる企業が良いだろう」と思ったからです。また「キャリアの面でも、もう少しステップアップしたい」とも思っていたので、いよいよ東京だな、と。
――現在はマネージャーという立場ですが、一エンジニアとしての仕事とはどのように違いますか。
当社のマネージャーの仕事は、タスク管理やスケジュール管理だけでなく、とても幅が広いです。事業の先を見据えた動きも求められます。
例えば、今後の機能拡張や新しいプロジェクトを見込んで、先回りして技術検証を行っていくなど、目の前にないニーズを想像して、チームを動かしていくのもマネージャーの役割です。当社のゲームは、「隣にいるリアルな友達や家族と一緒に遊んでほしい」という想いが込められているので、近くにいる人とスムーズに、かつ違和感なくマッチングをさせるための技術は、特に力を入れている部分だと思います。ゲームの開発においては、プロデューサーが実現したい世界を形にするために、「どういう技術を使えば実現が可能か」というエンジニア的な視点も交えつつ、逆にモックをエンジニアで作成して見せ方を提案することも。将来ゲームが大きく成長することを想像して、「スケールできて、拡張しやすい仕組みにしておく」ことも重要です。また興味のある技術や先進的な技術を導入したいと望んでも、実際のプロダクトに最適な技術とは限りません。ゲームを通して、ユーザーの皆様に新しい体験をしてもらうために、最適な技術を選択することが大切だと考えています。
マネージャーになって、このようなことを意識し始めたことで視野が広がりました。担当しているゲームの未来像や、将来あるべき開発体制など、先のことまで考えながら動けるようになったと思いますね。
「全体が良くなっている」とマネージャーとして達成感を感じる
――でもマネージャーになった当初は、大変なことも多かったのでは。
「ファイトリーグ」の開発が始まった時期に、初めてマネージャーとしてチームに参加しました。すでに2人のエンジニアが技術の選定などを始めていたところに加わり、人を増やしてチーム自体をつくり上げなければなりませんでした。
マネージャーとしてどう動けばよいのかと模索しつつ、使おうとしている技術をキャッチアップする必要がありました。それと同時にチームづくりのためにキャリア採用の面接、協力会社との関係づくりと、全部を同時にこなすことはやはり大変でした。当時のメンバーには随分迷惑を掛けたと思いますね。経験豊富なメンバーから、いろいろなアドバイスやサポートをしてもらったことで、とても助けられました。
――エンジニアとマネージャーとでは、やりがいや達成感は違いますか。
一エンジニアだった時は、自分のつくった機能やサービスが世に出た時に達成感を感じていました。自分が担当している機能を、効率的にきれいに作ることが日々の喜びでした。
マネージャーになってからは、自分だけで完結することはなくなりました。先を見据えた上で、チームのメンバー、プロジェクト、会社を巻き込んで、何か物事を動かせたと実感できると達成感を感じるようになりました。
例えば、私が描いているプロジェクト像やチームの姿がメンバーにも伝わったと感じたり、メンバーが成長していると感じたりした時、他の部署と連携できて全体が組織として機能していると感じた時などに達成感がありますね。
30代になって、この先の人生を見据えて時間の使い方が変わった
――今はゲームを世に送り出す立場ですが、休日などにゲームで遊ぶこともありますか。
ゲームをするのも、どちらかという仕事の1つですね。他社の話題のゲームを一通りやってみたり、技術的にどう実現しているのか考えたり、常にキャッチアップしなければなりませんからね。
自分が開発に関わっているゲームもしっかりやり込みますが、どうしても仕事をしている気分になってしまいます。
――では、オフの時間はどのように過ごしていますか。
平日は時間に余裕がなく、きちんとした食事もとれないので、時間があるときは少し手を掛けて料理をしたり、あえて外に出て本を読んだりしています。以前はホットヨガに通っていたのですが、プロダクトのリリース前後は忙しくてお休みしてしまうので、また再開したいと思っています。
30代になってから、時間の使い方に対する考えが変わってきたような気がします。20代は、ただがむしゃらに働いていて、オンもオフもないような生活をしていました。今では「そういう生活をずっと続けて10~20年後、人としての幅がどれだけ広がるのだろう」と考えるようになりました。
最近はできるだけ、やったことがないことにチャレンジしたり、行ったことがない場所に行ったり、いろいろな人と話をするように心掛けています。
エンジニアには、「掘り下げられる」資質が必要
――エンジニアにとって必要なスキルは何だと思いますか。
業界によって求められるスキルはさまざまですが、1つのことを掘り下げられる資質は必要だと思います。
いろいろな技術や言語を知っていれば、ちょっとしたものをそれなりにつくることはできると思います。けれど1つの最終製品として完成度を上げていくには、掘り下げられる力が必要です。採用の面接をする場合も、1つのことにきちんと向き合い、掘り下げてきた経験があるかどうかを見るようにしています。
――今後のキャリアについてどのように考えていますか。
エンジニアとしてのキャリアをスタートした時から、「とにかく60歳まで仕事をしたい」という気持ちがありました。そのためには手に職をつけなければと考えて、技術職を選んだわけです。
基本的な考えは今も変わっていませんが、エンジニアに実際なってみると、どうやって60歳まで働くかは悩ましいところもありますね。「自分の専門性を高めて、価値を提供し続ける」という働き方もあります。「マネージメントの力を身に付けて、エンジニアとしての専門性をベースに別の価値を提供できるようになる」という方法もあると思います。最近、私は後者の道に進みたいのかなと思うようになりました。
今はエンジニアのマネージメントですが、今後はプロジェクト全体をマネージメントするようなこともやっていきたいと思います。当社はゲーム以外も多くのサービスを展開していますし、積極的に手を挙げれば新規事業など新しいことにもチャレンジできる環境があります。いずれはゲーム以外の開発にも携わってみたいですね。