東大、非常に強い電子間相互作用を持つゼロギャップ半導体を発見

ゼロギャップ半導体の一つで、2次分散バンドが1点で接した「ラッティンジャー半金属状態」のバンド構造

東京大学は2017年12月13日、同大学物性研究所の研究グループが、米ジョンズ・ホプキンス大学との共同研究で、ゼロギャップ半導体として知られるイリジウム酸化物Pr2Ir2O7をテラヘルツ分光を用いて調べたところ、5ケルビン(マイナス268℃)という低温で、これまで他のゼロギャップ半導体で知られていた値の数十倍以上高い比誘電率を観測し、電子間の相互作用も非常に強いことを実証したと発表した。

物質の特徴を決める電子のバンド構造のなかで、価電子帯(電子で満たされたバンド)と伝導帯(満たされていないバンド)の間のエネルギーギャップがゼロの状態をゼロギャップ構造という。ゼロギャップ構造の半導体は、高い電子移動度や量子ホール効果などのトポロジカルな機能により近年注目されている。しかし、その物理はこれまで一般的に電子間の相互作用が弱い場合においてのみ研究されてきた。

一方、ゼロギャップ構造の他の例で、quadratic band touchingと呼ばれるバンド構造を持つラッティンジャー半金属という状態がある。この状態の物質では、電子間の相互作用が強く、通常の金属では期待できない新しい電子状態を作り出すことが40年以上前に予測されている。しかし、この物質の例として知られているα-スズやテルル化水銀では電子の有効質量が小さいため、電子間の相互作用も弱く、その効果を実験的に明らかにすることは困難だった。

今回同研究グループでは、quadratic band touchingを持つラッティンジャー半金属の1つで、有効質量の大きなPr2Ir2O7を用いて、電子間の相互作用の尺度となる比誘電率の値を調べた。この物質にテラヘルツ波を照射し、その電荷応答を観測・解析したところ、5ケルビンという低温において約180という非常に大きな比誘電率が得られた。これは、低温でこれまで知られているゼロギャップ半導体の値の数十倍以上大きな値だ。

また、quadratic band touchingを持つラッティンジャー半金属では、比誘電率は電子間の相互作用の大きさを見積もる尺度となる。これを利用して比誘電率の値から電子間の相互作用の強さを見積もると、相互作用の大きさは電子の運動エネルギーに比べて2桁程度も大きいことが明らかになった。

同研究グループは、今後ゼロギャップ半導体における電子間の相互作用の役割について理解が進むことで、新しい物理現象の発見につながることが期待されるとしている。

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