キロアンペア級の交流電流を流せる、高温超伝導ケーブルを開発 京大と古河電工

京都大学と古河電気工業は2023年9月15日、交流の大きな電流を流すことができ、内部で発生する交流損失が小さい高温超伝導集合導体「SCSCケーブル」を開発したと発表した。ケーブルを使った実験では1kAの交流の電流を流し、交流損失を従来の10分の1に抑えることに成功した。研究成果は2023年9月14日、フランスで開催された「第28回マグネット技術国際会議」で発表された。

京大の研究グループはこれまで、内部の超伝導薄膜を細く分割した薄膜高温超伝導線をコア(芯材)のまわりにらせん状に巻くことで、交流損失を小さくする技術を研究してきた。この研究を受け、古河電工と古河電工グループの米SuperPowerは銅めっきマルチフィラメント薄膜高温超伝導線(幅2mm、厚さ0.05mm、フィラメント10本)を安定して製造する技術を開発し、1.6km以上の超伝導線を研究グループに提供した。

マルチフィラメント薄膜高温超伝導線
(銅めっき前の様子で,10本のフィラメントが見えている)

研究グループはケーブル作製機を使って、直径3mmの金属のコアのまわりに1層あたり3本、4層にわたって合計12本の銅めっきマルチフィラメント薄膜高温超伝導線を巻き付けた、長さ5mのSCSCケーブルを試作し、長いSCSCケーブルが作製できることを実証した。ケーブル作製機の運転を続ければ、数十mのケーブルの製作も可能だ。

ケーブル作製機

さらに直径3mmの金属のコアのまわりに1層あたり3本、6層にわたって合計18本の銅めっきマルチフィラメント薄膜高温超伝導線を巻き付けたSCSCケーブルを作り、これを-196℃の液体窒素で冷やし、1kAの交流の電流を流すことに成功した。実験に用いたSCSCケーブルの直径は4mmで、1mm2当たり80A以上の密度で電流を流したことになる。

これは、一般的な電線である銅線に流せる電流密度の数十倍に相当し、SCSCケーブルを-253℃の液体水素で冷やせば、さらに大きい1mm2当たり100から200Aという高い密度の電流を流せると予想できる。高い密度で電流を流せると、強い磁気を発生させることができる。

また、別に作製した4層構成のSCSCケーブルを液体窒素で冷やし、100mTの大きさの交流の磁界をかけて測定した交流損失が、従来の標準的なテープ形状の薄膜高温超伝導線の同じ条件下における交流損失の10分の1になっていることも確認した。

高温超伝導線は、電気抵抗がゼロで非常に高い電流密度で電流を流せるため、モーターなど電気機器の省エネ/小型軽量化に役立つ。しかし、交流損失の大きさが、高温超伝導線を電気機器に応用するうえで障害となっていた。また、キロアンペア級の電流を流せないことや、テープ形状をしているため、テープの面の方向には曲げ易いものの幅の方向には曲げにくく、多様な形のコイルに巻けないことも課題だった。

SCSCケーブルは任意の方向に曲げられるため、多様な形のコイルに巻くこともできる。研究グループは今後、さまざまな形や大きさのコイルを作れるようになれば、超伝導磁気エネルギー貯蔵装置や超伝導モーター、超伝導発電機などの開発の道が開け、カーボンニュートラル社会を支える技術になると期待を寄せている。また、SCSCケーブルの交流損失が小さく、大きな電流を流せるという長所を活用すれば、時間的に変動する大きな磁界を発生させる核融合炉のコイルへの応用も可能だとしている。

関連情報

キロアンペア級の交流電流を流せる高温超伝導集合導体SCSCケーブルを開発|2023|ニュースリリース|古河電気工業株式会社

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る