東北大学、東京大学、名古屋大学、東京理科大学、フランス国立科学研究センターは2017年12月15日、質量がゼロの電子系で、電子スピンの新規なゆらぎを観測したと発表した。また、これが自発的な質量獲得機構の一つであるエキシトン転移の前駆的なゆらぎであることを解明した。
近年、新たなエレクトロニクス材料として期待されているグラフェンやトポロジカル物質などで、その特性が質量ゼロの電子によって説明されることが明らかになっている。質量ゼロの電子とは、有効的に真空中を光速に近い速度で運動する質量がゼロの粒子のように振舞う状態を指し、そのバンド構造にはディラックコーンと呼ばれる特徴的な構造が現れる。
一方、電子はマイナスの電荷を持っているため電気的に反発し合う性質(電子相関)がある。この電子相関は、現象を理解する上で本質的な役割を果たすことが知られ、近年、ゼロ質量電子系でも新規な特性を反映した電子相関効果が予言されていた。
そこで研究グループは、温度と圧力の調整により、電子相関の強度が制御でき、ゼロ質量電子系が現れると期待される分子性有機導体α―(BEDT-TTF)2I3に着目。また、核磁気共鳴(NMR)測定を相関の強いゼロ質量電子系に適用し、実験と理論シミュレーションの比較検証から電子物性を精査した。
結果、電子スピンの磁気的なゆらぎと関係するコリンガ則の破綻を見出し、その現象が強い電子相関によってディラックコーンが大きく変形することに伴う固有のスピンゆらぎの発達として理解できることを明らかにした。また、液体ヘリウム温度(約マイナス269℃)程度の極低温域まで温度を下げたとき、新たな電子スピンのゆらぎが発達することを発見。理論モデルとの比較を通じ、このスピンゆらぎが、質量ゼロの電子が自発的に質量を獲得するエキシトン転移の前駆的なゆらぎであることを立証した。
研究グループは、この新規なスピンゆらぎは、ゼロ質量電子が現れる物質中で普遍的に存在することが期待されると説明。今後、ゼロ質量電子が示す新規な物性の開拓を加速し、その特性を応用的に制御することを目指す新展開の基礎となることが期待されるとしている。