東北大学は2018年2月7日、優れた潜熱蓄熱特性を持つ二酸化バナジウム(VO2)を酸化物ガラスへ分散複合化した全固体型の潜熱蓄熱材料「VO2分散ガラス」を開発したと発表した。
蓄熱材料は「電池の熱エネルギー版」として、次世代自動車や発電、建築など幅広い分野で注目されている。このうち水やパラフィン、糖アルコールなどは潜熱蓄熱による蓄熱材料であり、PCM(Phase Change Material)とも呼ばれている。PCMは、固体と液体との相転移(固液相転移)の間は温度が一定に保持されるため、一定温度で熱を出し入れできる。一方で従来のPCMは液相状態を介するため貯蔵容器を要することに加え、相変化時の大きな体積変化や液体の漏れ出しなどの問題がある。
今回の開発で用いられた二酸化バナジウム(VO2)は、68℃付近で可逆的な構造相転移(固固相転移)を示して大きな潜熱を吸熱/放熱し、その蓄熱性能は既存のPCMに匹敵することが報告されている。相変化時に液相状態を介さないため、蓄熱時の体積変化は小さく抑えられるが、VO2結晶は粉末が主な使用形態であり、蓄熱材料とする場合にはやはり貯蔵容器が必要となる。
そこで今回同研究グループでは、潜熱蓄熱性結晶とガラスを複合化した新しい蓄熱材料を提案。この創成法の確立と潜熱蓄熱特性の実証のため、VO2結晶の分散複合化に適したマトリックスガラスの組成設計を行った。種々のガラス系の中では、BaO-TeO2-V2O5系ガラスがマトリックスガラスとして好適であることがわかり、VO2分散ガラスの開発に成功した。
VO2分散ガラスを加温した後、室温で放置した際の試料温度の変化を観察すると、結晶粉末と同様な温度保持特性が確認できた。またVO2分散ガラスは結晶粉末と比較して試料中での温度分布が均一であり、耐水性や吸熱/放熱の繰り返し特性にも優れていた。マトリックスガラスへのVO2結晶の分散複合化には、インコーポレーション法という簡便な溶融急冷プロセスによる手法を適用しており、大規模生産や大型化への展開が可能だ。
同研究グループによると、今回提案した結晶分散材料は容器フリーの全固体型PCMであり、直面するエネルギー問題の解決だけでなく、地球外惑星におけるコロニーの温度環境制御といった未来の宇宙開発への応用も期待されるという。