横浜国立大学は2018年2月27日、セラミックス構造部材特有の強度のばらつきを予測する数値解析手法を開発したと発表した。材料の微視的な組織情報と関連付けることで破壊強度を予測する。このようなアプローチを採った解析手法は、世界初だとうたっている。
セラミックスをセラミックス繊維で強靭化したセラミックス基複合材は、軽量で耐熱性・耐酸化性に優れ、次世代航空機エンジンの部材として有力な候補の1つになっている。
しかし、セラミックスは局所的な欠陥があると、そこを起点に脆性破壊が生じるリスクがある。しかも、生産時の焼結プロセスや加工プロセス次第で、セラミックスの内部や表面に大小さまざまな欠陥が生まれてしまう。たとえ同一ロットの製品であっても欠陥の分布特性は異なってしまい、試験片や製品ごとに破壊強度のばらつきが生じている。
対策としてセラミックスの強度を評価するため、ワイブル分布に基づく統計的な解析手法が採られてきた。しかし、ワイブル分布を得るためには多くの試験を要し、コストと時間がかかるといった欠点があった。
こうした課題を解決するため、横浜国立大学工学研究院 尾崎伸吾准教授らと物質・材料研究機構(NIMS)高強度材料グループの長田俊郎主任研究員らがつくる研究グループは、セラミックスの微視組織から得られる欠陥分布などの情報を利用し、破壊力学モデルを使ってマクロな情報へとスケールアップさせようと考えた。
具体的には、走査型電子顕微鏡による画像観察で微視組織の情報を取得。その情報を各種確率分布関数で表現し、破壊力学モデルを介して、数値シミュレーションで必要なパラメータへと間接的に反映する手法を開発した。
同研究チームは、乱数を用いることで数十~数千個の解析対象における微視組織情報の確率的な分布を再現し、解析対象ごとに異なる破壊強度のばらつきを再現することにも成功。得られた強度を基にワイブル統計処理を行い、セラミックスの破壊統計を低コスト・短時間で取得できるバーチャルテスト手法も編み出した。
バーチャルテストをコンピュータ上で実施した結果、実際の実験と極めて良い一致を示すことも確認できたという。
開発したバーチャルテストによって、セラミックス強度のばらつきに加えて、サイズ依存性も予測できるようになる。さらに得られたワイブル統計の結果と微視組織条件を関連付けることも可能なため、構造部材として要求される平均強度やばらつきの幅などの性能を満足し得る微視組織条件を、バックキャスティングすることも将来的に可能となる見通しだ。
この成果は自己治癒セラミックスや長繊維強化セラミックス複合材の設計にも活用できるため、先進セラミックスの設計や耐熱部材への実用化までの期間を大幅に短縮できると期待している。