繊維状ウイルスでできた熱伝導フィルムを開発――新しい熱輸送機構解明に期待 東工大

(a)M13ファージの模式図 (b)規則的に集合化したM13ファージの上面図と側面図の模式図

東京工業大学は2018年4月4日、無毒でひも状の構造をもつウイルス(繊維状ウイルス)を集合化させて構築したフィルムが熱伝導材として機能することを発見したと発表した。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけ「熱輸送のスペクトル学的理解と機能的制御」の一環として行われたものだ。

電気/電子機器の小型化や高集積化に伴う発熱密度の上昇により、速やかな熱輸送のための材料開発が重要となっている。柔らかく加工性に優れる材料として、有機系高分子材料は有用なものの1つだが、金属やセラミックスと比べ熱伝導性が2〜3桁低いという問題があった。その熱伝導性向上のためには、向きを揃えて分子を並べる「配向処理」により共有結合を介して熱輸送する手法や、無機材料との複合化が有効とされているが、近年では、生体高分子の利用も注目されつつある。

同大学の研究グループは、高い熱輸送効率を持つ材料を開発するため、生体本来の階層的な集合構造に着目した。繊維状ウイルスの一種であるM13ファージは、巨大で細長い構造を持ち、そのために規則的に集合化して液晶配向(細長い構造を持つ分子が同じ方向に揃って並ぶ)することが知られている。同研究グループでは、M13ファージを効率良く集合化させて規則的で緻密な集合構造を形成することで、効率良く熱輸送が起こると予想した。

分子を溶解した水溶液を乾燥する際、端の部分に分子が効率良く集積することは「コーヒーリング効果」として知られている。そこで同研究グループでは、M13ファージの水溶液を円形のスライドガラス上で乾燥させてウイルスから液晶性フィルムを構築し、フィルムの端の熱拡散率を測定した。その結果、特別な配向操作などを施していないにもかかわらず、毎秒0.63平方ミリメートルと、無機材料であるガラスに匹敵する値を示した。この値は無配向なウイルスフィルムと比べると約10倍となる。

一方、これまでに報告のある手法を使ってウイルスが配向した液晶性フィルムを調製して測定した結果では、値の向上は数十%にとどまった。このことから、M13ファージをただ液晶配向すれば良いわけではなく、効率良く液晶配向させながらフィルム化することが重要であることがわかった。

ウイルスフィルムの集合構造を小角X線散乱測定により解析した結果、いずれのフィルムでも分子レベルの集合構造(パッキング)は同じだった。しかし、よりマクロスケールの構造では、今回構築したフィルムの端のみが極めて高い配向度を持つことがわかった。このことから、広い範囲にわたって規則的に集合化させることが、効率的な熱輸送に重要であることが明らかとなった。

同研究グループは、今回の結果により、有機系高分子材料の熱伝導性向上において、生体高分子が示す階層的な集合化特性の利用が有用であることが示されたとしている。さらに今後、生体高分子を工学的に制御/利用することで、簡便な手法でできる熱伝導性の高い有機系高分子材料の開発と、それに基づく新しい熱輸送の機構の解明が期待されるという。

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