深く考え続けることで生み出す「発想」。人と違う発想こそがエンジニアとしての存在価値——メイテックフィルダーズ  小倉剛氏

製造業の設計開発部門からの多様なニーズに応えるプロのエンジニアを派遣するメイテックフィルダーズ。機械設計エンジニアの小倉剛氏は、技術力もさることながら、人とは異なる発想を提案できる貴重なエンジニアである。約30年のキャリアを活かして、近年は後進の育成にも取り組んでいるが、その研修内容もユニーク。必要とされ続ける小倉氏が考えるエンジニア像や、発想を生むために必要なことを語っていただいた。(執筆:杉本恭子)

空を飛ぶ機械に魅了された

――小倉さんは、なぜエンジニアになったのですか。

小さい頃、母が飛行機を見に飛行場に連れて行ってくれて、空飛ぶ機械に興味を持ったことがきっかけです。小学生の時には自転車のチェーンを変えたり、色々と改造していました。

大学では航空工学を学び、パイロットの試験にも挑戦しましたが、それは叶いませんでしたね。就職先を選ぶ時も、エンジニアが日本の航空機開発に関わっているという募集広告を見て、メイテックフィルダーズを選びました。

――御社の場合は、技術者派遣という仕事のスタイルですが。

私はどこの会社に帰属するかといったことには、あまりこだわらないですね。どちらかというと仕事の内容を重視するし、逆に派遣のほうが設計開発の現場で長くエンジニアとしての仕事ができるのではないかと思いました。

――最初はどんな仕事に就きましたか。

自動車メーカーのお客様先で、当時あまり普及していなかったエアバッグ関連の設計に携わりました。実際仕事に就いてみると、最初は何もわからなかったですね。当時お客様先では、すでにCADを使っていましたが、私は使ったことがなく実地で覚えていきました。

――航空機ではなかったのですね。

エンジニアとして設計開発の仕事ができるなら大きな抵抗はありませんでしたし、自動車でも自分の力は試せると思いました。

ちょっと変なヤツ?

趣味のバイクでは、法規走行やバイクのコントロール技術を競う「二輪車安全運転全国大会」で日本一になったことも

――その後、これまでどのような仕事をしてきましたか。

精密機器メーカー2社と、最初にお世話になった自動車メーカーの、2業種3社で仕事をしてきました。精密機器メーカーでは、画像処理を使って基盤や液晶を精密に測る二次元測定機の開発に従事しました。自動車メーカーでは、エアバッグの後は、現行車向けや先行開発車向けのサスペンションの開発に携わっていまして、通算すると25年以上お世話になっていることになります。

――同じ企業から請われ続けるということは、信頼されているのですね。

今はどこも人手が足りないので、経験のある人は重宝なのかもしれませんね。あるいは、私は周りから見ると「ちょっと変わったヤツ」だと思うのですが、こんな変わったヤツも1人ぐらいいてもいいと思ってくれているのかもしれません。

――「変わったヤツ」ですか。

おとなしく仕事をするだけではなく、ちょっと気がついたことがあると比較的発言する方です。お客様先で設計開発に従事するという働き方ですので、そういう発言を期待される場合と、うるさがられる場合があるので、気をつけなければいけないですが。特に先行開発などでは、ベンチマークが重要な一方で、まったく違う視点でいろいろなアイデアを検討したほうが、結果的に良い製品になりますので、積極的に発言・提案するようにしています。

精密機器メーカーでは、新たな測定方法の要求に対応するために、それまでのノウハウとは別の発想を提案し、そのまま製品に採用していただきました。最初は失敗もしましたが、結果的にその技術では特許も取っていただきましたし、今ではスタンダードな機構になっています。

自動車でも、サスペンション周辺の狭い空間に、多くの機構を収めるために工夫が必要で、いろいろなアイデアを提案してきました。他人とは違う発想を提案することが、私というエンジニアの存在価値だと考えています。

――そういう発想は、どうして出てくるのでしょう。

ずっと考え続けることが大事なのだと思います。いくら考えても、何も出ない時は出ないのですが、諦めずに深く時間をかけて考えていると、何かのときにポッと浮かんでくる。考えていないのにいきなり浮かぶことはないですね。

目の前のことに素直に受け入れる姿勢が大事

「自分の仕事は社会に貢献できているのか」と自問しつづけている

――小倉さんは、エンジニアとして何を目指してきたのでしょう。

子どもが小さかった頃は、家族を守るために一生懸命仕事をしたというのが、正直なところです。でもある程度年齢やキャリアも重ねてくると、お金のためだけでは仕事はできないですね。エンジニアとして自分のやっていることが、世の中で役立つにはどうすべきかと考えるし、そうあってほしいと願っています。

もしかすると、車椅子とか義手・義足とか、直接的に人の役に立つものも他にあるかもしれませんが、今置かれている自動車の業界で自分ができることは精一杯やるし、期待にも応えたい。それに他のメーカーより良いものを作りたいと思いますね。

これからは、今やっている自動車関係の仕事をしっかり続けながら、後進の指導や育成にも力をいれていきたいと考えています。

――すでに社内の研修にも取り組んでおられるそうですね。

はい。小集団活動の流れから、メイテックフィルダーズの営業所単位で研修を行っており、4年ぐらい前から講師を引き受けてから続けています。毎年テーマを決めて、月1回程度、日曜日などに研修を行います。最初はCADのオペレーションの研修をしていたのですが、CADは単なるツールですから、操作は覚えればいいことですし、単に操作を学んでも忘れてしまいます。そこで今回は三輪車のCADデータ作りに取り組んでいます。

――三輪車のCADデータ作りとは、具体的にどのようなことをしているのですか。

コンセプトは「おとなが屋外で遊べる三輪車」です。おとなが遊ぶならどういうコンセプトがいいのか、どこに市販部品を活用すべきか、また屋外で使うにはどういう法規に適合させなければいけないかなども調査・検討し、CADを学びながら、製品を作るために必要な一連のことを経験してもらっています。現在計測や実験の仕事をしている人たちが、将来設計の仕事を目指すために、設計者としての思考や経験を培うことにもなると思います。

研修で設計しているのは、ドリフトして遊べる三輪車。残念ながら実物を作る予定はないとか

――約30年にわたりエンジニアとして活躍してこられましたが、エンジニアに必要なスキルや能力は何だと思いますか。

1つは、ものごとの事象をあるがままに見られることだと思います。芸術家ならばイメージを膨らまして、「1」を100にも200にもできるし、1を数字でなく「青」ということもできる。エンジニアにもいろいろな見方をしなければいけないという側面はありますが、まずは今あることを素直にちゃんととらえて、その現実をどう変えていくかという視点が必要だと思います。

もう1つは、最後まできちんと作り上げるという意志ですね。中途半端にしてしまうと、結局機能を発揮できなかったり、壊れたり、使えなかったりする。モノにならないと、結局それまでの過程がゼロになってしまうのです。うまくいかなくても、失敗しても、そこからリカバーしていく精神力が必要なのかもしれません。

息子さんは理学療法を学ぶ大学生、娘さんはもうすぐ結婚。花嫁の父の心境は「何ともいえない」

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