東大、電圧で局所的に磁化を反転させることに成功――レーストラックメモリーの消費電力を大幅に低減

(a) 素子の概念図。細線中の一つ一つの磁区の磁化Mの方向がデジタル情報を担う。(b) 実際に作製した素子を真上から観察し た光学顕微鏡写真。

東京大学は2018年4月16日、磁性細線の一部に絶縁層を介して電圧を加えることで、狙った箇所のみの磁化を反転させること(反転磁区を導入すること)に室温で成功したと発表した。「レーストラックメモリー」の消費電力を大きく低減させることにつながる技術だ。

IBMによって提案されたレーストラックメモリーは、鉄のような磁石になる材料を細線にして、その中にできる磁区(小さな磁石)1つ1つにデジタル情報を担わせ、それを電流でシフトして情報を読み出すものだ。HDDのような機械的動作を必要としないため高速動作が可能で、また安価で高密度な記録も期待できる。

今回の研究では、数原子層程度のコバルト磁石をシリコン製の基板上に製膜し、それをマイクロメートルサイズの細線状に加工した試料をレーストラックに見立てて実験を行った。細線の一部分に、絶縁層を介して比較的厚い磁石を対向磁性電極(磁性ゲート電極)として設置。この磁性ゲート電極からの漏れ磁界が細線の一部に伝わることになる。細線とゲート電極の間に電圧(ゲート電圧)を加えると、ゲート電極直下の細線の磁性状態が変化し、磁化を帯びない状態(常磁性状態)になる。電圧を切ると再び磁石の状態に戻るが、このとき磁性ゲート電極からの漏れ磁界を感じて初期状態と反対向きに磁化する。これにより細線中に反転磁区を導入できる。

これにより、局所的な磁界を加えるなどの手法によることなく、コンデンサーに電荷を溜め込むのと同じ仕組みの、ジュール損失の極めて少ない電気的な手法でレーストラックに書き込めると示すことができた。この技術により、レーストラックメモリーにおける消費電力の大幅な低減が期待できる。

今後、制御ウィンドウの拡大による書き込み信頼性の向上や、生成された反転磁区の電流によるシフト、素子のナノサイズ細線化への取り組みを進めていくという。

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