大阪大学は2018年5月8日、次世代の太陽電池として期待されている高分子太陽電池の高分子材料設計において、人工知能(AI)のアルゴリズムの1つであるランダムフォレスト(RF)を用いて性能予測・選別する手法を開発したと発表した。
有機薄膜を用いる高分子太陽電池は、すでに実用化されているシリコン太陽電池や化合物太陽電池と比べ、軽量でデザイン性に優れる。そのため、機械的強度が低い建物の屋上や窓、壁に設置できるなど、小規模施設における多様な活用が期待されている。
高分子太陽電池の多くは、光を吸収して電子を受け渡し、正電荷を運ぶp型高分子半導体と、電子を受け取って負電荷を運ぶn型低分子半導体で構成される。代表的なn型低分子半導体には、置換基を付けて誘導体にし、溶媒に溶けるようにしたフラーレン(フラーレン誘導体)が用いられている。このフラーレン誘導体と高分子を溶液に溶かして基板に塗ることで、混合膜が形成される。
この10年間で、高分子フラーレン太陽電池の変換効率は、主に高分子材料の開発によって10%を超え、比較的高くなっている。また、フラーレン誘導体を他の低分子半導体に代えたものでは13%程度まで向上している。
しかし、混合膜に用いる高分子材料の化学構造は、炭素-炭素結合が直線もしくは分岐状に連なり、残りの結合部に水素が付加した分子の部分構造「アルキル鎖」や、電子を供与する、あるいは電子を吸引する性質を持つ部分構造「電子供与基・電子吸引基」で構成され、無限に近い組み合わせが存在する。さらに、混合膜の構造やその混合膜を用いた太陽電池の性能は予測できない。そのため、人海戦術的に、ありとあらゆる材料を検討することは、合成実験上も、高分子部分構造の電子状態を精密に予測できる計算科学でも限界があった。
熱電変換材料やリチウムイオン電池の新規材料開発では、情報データ科学と従来の材料科学が融合した分野「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」を用いることによって、実際の材料合成やコストのかかる精密な計算を部分的に省略して効率的に材料探索を行うことに成功している。
高分子太陽電池では化学構造など数多くの要因が素子性能に複雑に影響するため、MIは有効に利用されていなかった。そこで今回、同大学の佐伯昭紀准教授をはじめとする研究グループは高分子太陽電池材料の選別に特化したMIの手法を開発した。
まず、同グループは学術論文で報告されている高分子フラーレン太陽電池の混合膜材料の化学構造とその素子性能に関わる物性値(分子量、電子準位など)を1200個集めて、手作業でデジタルデータとして打ち込んだ。そして、これらのデータセットをもとにして分類、予測する、RFを用いた分類器(ある入力パラメータに対して、それがどのグループに属するかを判定するモジュール)を構築。この分類器は、すでに学習した化学構造に対しては95%以上の正答率が得られることが確認された。
さらに、他の計算化学データベースで提供されている分子構造を分類器によって選別し、それらの素子性能を予測した。続いて同グループが実際に合成した高分子を、佐伯准教授らがこれまでに開発した高速実験スクリーニング法という手法で性能予測すると、分類器による予測に近い性能が得られた。
MIによる分類器と実験スクリーニングを融合した一連の開発手法は世界初だという。実用上も有効で、高効率な高分子太陽電池の開発の加速につながると期待されている。
また、高精度の機械学習では数万個以上のデータが必要と考えられているが、同研究では、1000個程度のデータ数でもRFが有効であることを実証した。これは、他分野でも「実験データに基づくMI」を展開する上で重要な知見だという。
研究グループは今後、RFによる材料設計手法を、高分子だけでなく低分子や3種混合系材料にも展開し、より高効率な高分子太陽電池材料を探索していく考えだ。