熱を電気に変換――MIT、超強力磁場を使い熱電効果を5倍に高める

トポロジカル半金属を用いて、超強力な磁場を付加することにより、熱電変換能力を著しく向上する方法を見出した。

MITの研究チームが、トポロジカル半金属に超強力磁場を付加することにより、熱電効果を著しく向上する手法を見出した。発電能力が低い従来の熱電材料と比較して、実に5倍も高効率で2倍のエネルギーを発電できる可能性がある。エンジンの放出熱で発電したり、発電所の廃熱を家庭用電力に活用できるようになる可能性がある。研究成果は、2018年5月25日の『Science Advances』誌に公開されている。

熱電材料では、片側の端部が加熱され電子が活性化されると、高温部から飛び出して低温部に集積されて、電位差を生じる。これが温度差から電気を作る仕組みだ。しかし現在の熱電材料では、電子は低エネルギー状態の価電子帯に存在し、熱によって高エネルギー状態の伝導帯に活性化されるためには、電子が存在できないバンドギャップを飛び超えなければならず、非常に小さな熱電効果しか得られないという問題がある。

研究チームは、価電子帯上部と伝導帯下部がわずかに重なり合っている半金属、その中でも表面や界面で特異な導電性を示すトポロジカル半金属と呼ばれる材料系に着目した。このトポロジカル半金属はバンドギャップがゼロという特異なエネルギー構造を持ち、そのため電子は容易に高エネルギー帯へとジャンプすることができる。

とはいえ、このトポロジカル半金属においても、大きな熱電能力は生じないと見られていた。電子が低音部に集積して高エネルギー帯にジャンプする際、プラスに帯電した正孔を残し、その正孔も低温部に集積してお互いの効果を打ち消しあうためだ。

そこで研究チームは、プリンストン大学の研究にヒントを得て、トポロジカル半金属の1つ「セレン化鉛すず」に、30テスラの超強力磁場を付加する場合の熱電性能を理論的にモデル化した。磁場が電子の運動に作用し、その軌道を曲げることは良く知られているが、電子と正孔は磁場から逆方向の力を受けるので、トポロジカル半金属の電子は低温部にそして正孔は高温部に移動する。その結果、高い電圧を得ることができると予測された。

この理論的なモデルから熱電効果の性能指数ZTを計算すると、従来の熱電材料が約2であるのに対し、超強力磁場下のセレン化鉛すずは約10で、5倍に効率化される。さらに約230℃まで加熱すると、熱の18%を電気に変換することができるという。従来材料では、わずか8%程度だ。

MRI装置で使用される強磁場も2~3テスラ程度で、30テスラの超強力な磁場は世界でも数えるほどの施設でしか達成できない。研究チームのLiang Fu准教授は、トポロジカル半金属の純度を高めれば、より低い磁場でも大きな熱電効果を発揮できると、考えている。

研究チームは、この新しい熱電材料の手法を特許出願しており、またプリンストン大学と共同研究を進めている。

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