現場でめっき、ターボファン一体成型、無電源の遮断弁――葛飾・荒川・墨田区の光る技術[第22回 機械要素技術展]

「第22回 機械要素技術展(M-Tech)」が2018年6月20~22日、東京ビッグサイトにて開催された。機械要素技術展は、ネジやバネ、モーター、機械材料、各種装置類といった機械要素・加工技術を集めた専門展だ。「日本ものづくりワールド2018」の1つとして、「第29回 設計・製造ソリューション展」「第9回 ヘルスケア・医療機器 開発展」「第26回 3D&バーチャル リアリティ展」と同時開催された。

今回は4展合計で2500社以上が出展。9万人弱の来場者があり、大いににぎわっていた。本サイトの読者なら、毎回会場に足を運んでいる方もいらっしゃるのではないだろうか。

自治体のブースには、地味なようで意外にすごい技術が展示されている

こういった展示会では、大手企業の最新技術や大型装置に目が移ってってしまうことが多いが、目立たぬ小さなブースに思いがけないすごい技術が展示されていることがある。そのような技術に出会えることは、展示会に行く楽しさの1つと言える。

とはいえ、展示会場は広く出展社も多い。闇雲に見て回るのには時間もかかる。そんなときは自治体や公共団体のブースを訪ねてみるのも1つの手だ。さまざまな分野の企業が何社かまとめて出展していて、担当者が注目の技術や、探している技術分野に近いものを案内してくれる。普段あまり前に出てこない町工場の光る技術を見ることができるチャンスだ。

「日本ものづくりワールド2018」では96の自治体や公共団体が出展していた。今回のレポートでは、その中でも機械要素技術展に出展していた東京23区の自治体にスポットを当てて前後編に分けてレポートしていく。(執筆:馬場吉成)

素材加工の工場多数。町工場のワンダーランド、葛飾区

23区東部に位置する人口約45万人の葛飾区。「寅さん」「こち亀」などで知られる

最初に紹介するのは葛飾区だ。平成24年経済センサス-活動調査によれば、区内には2673の工場があり、23区の中で4番目に多い。そして、その多くが小規模のいわゆる「町工場」で占められているのも特徴の1つだ。

葛飾ブランド「葛飾町工場物語」という認定制度も設けている

葛飾区では写真のような冊子を作り「葛飾ブランド」を積極的にアピールしている。こちらの冊子によると、葛飾区はかつて玩具の街として知られ、玩具に使用する多様な素材を加工する工場が多く集まっていた。その関係で今も金属、ゴム、皮革、繊維、プラスチックなど、さまざまな素材を加工・製造する工場が多く存在する。

「葛飾町工場物語」に認定された製品・技術の紹介マンガも掲載されている

現場でのめっき処理を可能にする技術

現場で直接このような部分めっき処理が可能

葛飾区のブースで目にとまったのは、港メッキ工業所の「高速部分メッキ・肉盛り補修SIFCOプロセス」だ。通常、めっき処理する場合は、大きな槽に満たされためっき液に部品を入れる。しかし、同社の技術を使えば、部品をめっき工場に持ち込まなくても現場でめっき処理できるようになる。

ポータブルの整流器と、めっきのワークに合わせた電極により、どこでもめっきできる

通常のめっきと異なり、低応力で膜厚が高くなっても内部クラックが発生しにくい。めっき時の温度も40度前後で熱歪みの問題もない。多様な素材へのめっきにも対応している。

用途としては、傷や打痕の補修、表面硬度の改善、耐腐食性の向上など数多くあり、既に製造現場で多数の施工実績がある。シャフトなどに傷をつけて困っている方は、これで解消できるかもしれない。

さまざまなめっきに対応

多様な製造業が集積。ものづくりの街、荒川区

23区東部に位置する人口約21万5000人の荒川区。日暮里の生地織物店舗街は海外にも知られた存在だ

続いて紹介するのは荒川区だ。区内の事業所のうち、製造業の占める割合が約20%と全国や東京都の平均を大きく上回っている。

業種としては、印刷、金属製品製造、皮革、紙パルプ、繊維などが多い。荒川区の冊子によれば、他の生産物の原材料となる中間財の製造業者が多いそうだ。そして、荒川区も「町工場」といわれる小規模工場の比率が高く、多様な製造業が集積する街と言える。

冊子によると産学公の相互活用も盛ん

ターボファンを一体成型

ターボファンが接着ではなく一体成型できる

荒川区のブースで気になったのは、松田金型工業の「三段スライド式ターボファンの一体成型用金型」だ。ターボファンは冷却や排気に使用する遠心送風機のパーツ。複数の羽を持っており、金型による成形が難しい形状であるため、複数の部品を接着・溶着して製造するのが一般的だ。

この金型でターボファンが一体成型できる

こちらの金型はスライドを巧みに活用することで、ターボファンの一体成型を可能にしている。一体成型することで強靭性が増し、製作工程が少なくなることでコストダウンにもつながった。

このような形状を、接着ではなく金型で一体成型できる

近代産業発祥の地。企業同士の交流も盛ん、墨田区

23区東部に位置する人口約27万人の墨田区。東京スカイツリーが立つ

前編の最後に紹介するのは墨田区だ。川に囲まれ水運に恵まれていた墨田区は江戸から明治にかけて工業化が進み、紡績やゴムといった近代産業発祥の地として発展してきた。

近年では都市化が進み、大工場こそ減ったものの、工場の数は都内でもトップ3に入る。印刷、繊維、金属、皮革、プラスチック、ガラスと業種は幅広く、9割近くが人数9人以下の小規模事業所。都内でも有数の町工場集積エリアと言える。

PR冊子には墨田区の産業発展の歴史から各企業のこだわりポイントまで掲載している

墨田区では多様な業種が集積しているメリットを生かせるように、企業間や産学のマッチングなどにも積極的。事業継承支援事業などにも力を入れ、区内産業の継続・活性化を図っている。ものづくりを大切にしている区だ。

若手の連携も盛ん

災害時も無電源で緊急動作する遮断弁

停電時に余震があっても確実に水を遮断

墨田区のブースから紹介するのは、テクノバックの「機械式緊急遮断弁(受水槽用緊急遮断弁)」。この遮断弁はビルの屋上などにある受水槽に取り付けるものだ。地震動による感震器の動作力のみで作動し、スプリングの力で弁が閉じる。

電力が不要なので、本震で停電している状態で余震が来た場合でも、確実に動作して受水槽の弁が閉まり、配管破損による飲料水の流出を防ぐことができる。山岳地帯などの電源を確保することが難しい場所でも使用可能だ。IoTデバイスによりシステムを監視・制御する安全対策も近年急激に進歩しているが、こういうアナログな技術も緊急時には活躍することになるだろう。

前編はここまで。次回、後編では品川区、足立区、板橋区の3区を紹介していく。

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