東京大学は2018年7月31日、理化学研究所などとの研究グループが、室温で巨大な磁気熱電効果「異常ネルンスト効果」を示す磁性金属Co2MnGaの開発に成功したと発表した。Co2MnGaは、これまでの最高値の10倍以上大きな異常ネルンスト効果を示しており、熱電応用も可能だという。
熱を電気に変換する研究は世界中で行われている。なかでも熱電変換素子を用いた熱発電と呼ばれる方法は、タービンなど大型の装置を用いる方法に比べ小型で静音、メンテナンスフリーなどの利点を持つ。しかし、従来の非磁性半導体を用いる熱電変換素子は発電方向が温度差の方向と同じであるため(ゼーベック効果)(図a)、立体的で複雑な構造になり(図c)、大型化や高集積化に伴う製造コストの課題がある。
一方、磁性体の異常ネルンスト効果は温度差の方向に垂直に発電する(図b)。そのため、立体構造は不要で、テープ化などにより熱源に沿った大面積の発電が容易にできる(図d)。しかし、これまでに知られている異常ネルンスト効果は非常に小さく、熱電応用は難しいと考えられていた。
東京大学や理化学研究所、米メリーランド大学の研究グループは、強磁性金属間化合物Co2MnGaが、これまでの最高値より10倍以上大きな異常ネルンスト効果を室温で示すことを明らかにした。10ccの体積で約100W以上の発電が可能で、腕時計や熱流センサーなどへ利用できるという。
さらに、室温以上の高温ではさらに大きな異常ネルンスト効果を示す。広い温度範囲をカバーすることから、様々な温度の熱源で発電が可能だ。また、製造コストが安く無毒な材料でできており、耐久性や耐熱性も優れているため、様々な場所に適用できる。
この巨大な異常ネルンスト効果は、「ワイル点」と呼ばれる電子構造のトポロジーと密接に関係しているという。研究グループは実験や第一原理計算によって、今回開発した物質ではワイル点がフェルミ面近くにあることをあきらかにした。一般に、このようなワイル点が存在すると異常ネルンスト効果が大きくなることが知られているが、今回の増大は、それでは説明のつかないほど大きなものだった。
そこでワイル点を仮定したモデル計算を行ったところ、この増大が、ワイル点の性質が変化することに対応した「量子臨界現象」によるものだということがわかった。この発見は、さらなる高出力材料の指針になるだけでなく、学術的にも興味深い成果だという。
研究グループによると、異常ネルンスト効果に基づいた熱電変換は無毒・廉価・耐久性など既存技術にはなかった特性をもつという。材料探索では、同研究で明らかになった異常ネルンスト効果増大のメカニズムが重要になり、さらに高出力化・薄膜化などの研究が進展すれば、実用化が期待できるとしている。