コンピューターチップの冷却に利用できる熱伝導クリスタル

アメリカのテキサス大学ダラス校自然科学数学科物理学専攻のBing Lv准教授らは、2018年7月5日、熱伝導率が非常に高いヒ化ホウ素と呼ばれる半導体結晶を製作したと発表した。ヒ化ホウ素は熱伝導率が高く、安く製作できるとあって、コンピューターデバイスの熱制御に一石を投じる半導体結晶素材として期待できるそうだ。研究成果は『Science』に論文「High thermal conductivity in cubic boron arsenide crystals」として2018年7月5日に発表されている。

ラップトップや携帯において熱処理は重要な課題だ。熱のために動作が遅くなったり、シャットダウンしてしまったりすることもあり、困った経験を持つ利用者も多いであろう。現在、主に利用される半導体結晶材料のシリコンは、他の冷却技術と併用してコンピューターに利用されている。他にも、ダイヤモンドが最も熱伝導率が高い材料として知られている。シリコンの熱伝導率150W/m・Kに対して、ダイヤモンドは凡そ2200W/m・Kを持つという。しかし、人工ダイヤモンド薄膜の構造欠損や材料コストゆえに電気デバイスへの応用は限られた用途のみになっている。

今回の研究では、Lv准教授らが初めてヒ化ホウ素の製作に成功した2015年の先行研究をさらに進め、より高い熱伝導率を持つヒ化ホウ素を作成したという。熱伝導率の向上には結晶成長プロセスの最適化が鍵になったようだ。具体的には、化学気相輸送法と呼ばれる方法を用い、炉の一端が高温で他端が低温の中に原材料のホウ素とヒ素を置く。高温から低温側へ化学輸送が起こり、結晶が形成される。1000W/m・Kの熱伝導率の向上のためには原材料組成や炉の温度および圧力といった多くのパラメーラーの調整も必要だったという。ヒ化ホウ素は、2015年の結晶作成時には200 W/m・Kの熱伝導率を示さなかったが、今回は1000W/m・Kまで向上し、ダイヤモンドに次ぐ値だ。

製作された半導体結晶は非常に小さかったため、熱伝導率測定には時間領域サーモリフレクタンス法(TDTR)が用いられた。ヒ化ホウ素において熱量が発散される原理には材料の振動が関係しているという。結晶が振動し、フォノンと呼ばれる準粒子が形成され熱を伝導するようだ。Lv准教授は、ヒ素とホウ素の質量差もフォノンが熱を効率よく伝えることに貢献していると話している。

シリコンに匹敵する材料としてヒ化ホウ素への期待は大きい。ヒ素自体は人間に有毒であるが、化合物となるとヒ素は安定しており無害だという。次の研究目標は、より大きなヒ化臭素の結晶を成長させ、大規模な応用デバイスにへの利用だと研究者らは語る。

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