グラフェンを引っ張った時の変化に新たなシナリオ――理化学研究所が発見

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ケクレ型ダイマー状態の模式図(青で示した炭素原子間の距離が周期的に縮む)

理化学研究所は2018年8月22日、同研究所などによる研究グループが、「グラフェン」を等方的に引っ張ったとき、その原子構造と電子状態がどのように変わるかをシミュレーションにより解析し、従来の予想とは異なる新しいシナリオを発見したと発表した。グラフェンの基礎物性の新たな発見であるとともに、グラフェンの絶縁体化への道筋を示したことで、デバイスなどへの応用も期待できる。

炭素原子が蜂の巣状につながった結晶構造を持つグラフェンは、さまざまなユニークな性質を示すため、近年、注目を集めている。例えば、グラフェンで実現している質量ゼロのディラック電子(半金属状態)に、どのように有限の質量を持たせられる(絶縁体状態にする)かは、基礎物理だけでなく、グラフェンを機能性材料として利用するうえでも重要な問題となる。

この問題の解決法の1つとして「グラフェンを引っ張る」ことが挙げられる。従来の考え方では、グラフェンを等方的に引っ張ると炭素原子間の距離が大きくなって電子が炭素原子間を飛び移りにくくなり、相対的にそれぞれの炭素原子上での電子間クーロン相互作用(二つの電子が反発し合う力の作用)の影響が強くなる。すると、電子が各炭素原子上に局在するようになって絶縁体化してモット絶縁体になり、磁性(反強磁性)が出現すると考えられていた。

今回同研究グループでは、スーパーコンピューター「京」を活用した「第一原理量子モンテカルロシミュレーション」により、グラフェンを等方的に引っ張った場合にどのように電子状態が変化するかを解析した。まず、実験で実現している張力一定の条件でのグラフェンの安定な原子構造と電子状態を決定するために、熱力学の状態量の1つであるエンタルピーを計算。その結果、予想されていた反強磁性絶縁体状態は安定にならず、隣り合う炭素原子が互いに対(ダイマー)を作って規則正しく並んだ「ケクレ型ダイマー状態」が安定になることがわかった。

第一原理量子モンテカルロシミュレーションの概念図

このケクレ型ダイマー状態にある炭素原子6個が作る六角形に注目すると、ベンゼン分子で見られる共鳴原子価結合(RVB)状態と似ていた。電子状態をRVB状態ではなく、1つのスレーター行列式で表す計算では、ケクレ型ダイマー状態は安定ではなかった。これは、このケクレ型ダイマー状態が、炭素原子の結晶構造の歪みによって誘発されたのではなく、電子状態が電子間クーロン相互作用によりRVB的な状態になったことで引き起こされたことを示している。

さらに、このケクレ型ダイマー状態は、先行研究でも提案されていたタイプの「対称性に保護されたトポロジカル相(トポロジカルに非自明な状態相)」に属する可能性も示した。

ケクレ型ダイマー状態は非磁性絶縁体だが、この状態に動き回れるキャリア(電子あるいは正孔)を注入した場合にどのような状態が現れるかは、今後の興味深い問題で、RVB超伝導が現れることも期待されるという。

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