鋼のように強いクモの糸の秘密を解明――高強度人工繊維の開発も

米ノースウェスタン大と米サンディエゴ州立大学(SDSU)の研究チームは、クロゴケグモのシルクタンパク質分泌腺の内部を直接観察し、液体から糸への変換初期のタンパク質構造を明らかにした。天然のクモの糸に匹敵する特性を持つ人工繊維の製造につながる可能性がある。研究結果は、2018年10月22日付けの米国科学アカデミー発行の機関誌『PNAS』(米国科学アカデミー紀要)に掲載されている。

クモの糸、なかでもクロゴケグモの糸は、鋼鉄に匹敵する優れた靭性と引張強さを持っている。同時に、合成繊維と比べて非常に軽く生分解性も高い。研究者らは長年、その特性を再現するために、クモの糸を形成するシルクタンパク質のアミノ酸の配列について研究を行い、理解を深めてきた。

しかし、タンパク質がマイクロスケールの繊維になる過程で、シルクタンパク質分泌腺や出糸管の中でナノスケールで起こっている貯蔵、形質転換、輸送プロセスが解明されておらず、クモの糸の強度と特性を持った合成材料を作ることに成功していない。

今回研究チームは、溶液核磁気共鳴(NMR)分光法と極低温透過型電子顕微鏡を用いて、クロゴケグモのシルクタンパク質分泌腺の内部を詳細に観察した。その結果、タンパク質が複雑で階層的なナノアセンブリーとして貯蔵されていることが明らかになった。

これまで、クモの糸になる前のシルクタンパク質は、ナノサイズの両親媒性の単純な球状ミセル(水溶性と非水溶性分子から成るクラスター)を形成していると考えられてきた。人工繊維の開発も球状ミセル構造を利用して進められてきたため、実際のクモの糸ほどの特性を持たせることが出来なかった。

しかし、研究の結果、それらは単純な球状ミセルではなく、複雑な複合ミセルであると判明した。この「修正ミセル理論」によると、小さなミセルが集まって直径200~500nmのナノアセンブリーを構成し、それが紡糸プロセス中に押し出されて糸になるという。

「この天然プロセスを真似して、人工繊維を大規模に生産することが出来れば、材料やエンジニアリングへ大きな影響を与えるだろう」と、研究チームは語る。高性能の衣料素材、橋梁の建材、環境にやさしい代替プラスチックの製造をはじめ、生体医学など、幅広い分野で利用できると期待している。

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