自然治癒力を活性化させる新しい人工生体材料「TrAPs」を開発

イギリスのインペリアルカレッジの研究チームは、身体の自然治癒システムに働きかけ、創傷の回復を早めることができる画期的な生体材料を開発した。創傷の修復プロセスのどの段階でも有効で、どのような傷にも幅広く利用できるという。研究成果は2019年1月7日付けの『Advanced Materials』に掲載されている。

海綿動物から人間まで、生物の傷が治る過程では細胞の働きが大きく関わっている。怪我をすると、巣の上を這うクモのように、細胞がコラーゲンの「足場を伝って」患部までやってくる。このとき細胞が足場を引っ張るため、治癒に関わるタンパク質が活性化し、傷ついた組織の修復を始める。

研究チームは、この自然治癒のプロセスを模倣できる人工材料を開発した。TrAPs(Traction force-Activated Payloads)と名づけられた分子は、DNA断片が3次元形状に折りたたまれた構造で、特定のタンパク質に結合するアプタマーとして働く。TrAPsの一端には「ハンドル」を取り付け、足場を伝ってきた細胞がTrAPsを掴んで引っ張れるようにした。もう一方の端は足場に結合している。

実験では、細胞に引っ張られたTrAPsは靴紐のように解け、治癒に関わるタンパク質を活性化させることを確認した。これらのタンパク質は細胞に対して成長して増えるように働きかけるため、傷の回復が早くなるというわけだ。

さらにハンドルを変えれば、反応する細胞の種類も変わり、特定の治療用タンパク質を適切なタイミングで活性化することができる。こうして、TrAPsは傷の修復期間中、正しい時期に正しい種類の細胞とスムーズに相互作用することができる。

この方法は様々な細胞型に適応できるため、骨折や心臓発作後の瘢痕(はんこん)組織、傷ついた神経など多様な損傷に使える。非外傷性下肢切断の原因となる糖尿病性足部潰瘍といった、治療にも関わらず傷が治らない患者にとっても有効と考えられる。そして、薬としても使われるアプタマーは、安全性が証明されている。また、TrAPsは比較的製造が簡単で、産業用にスケールアップすることも可能だ。

研究チームは、TrAPsを現在の医療材料と組み合わせることで、損傷の治療に革命をもたらすだろうとし、「この技術は、細胞組織と連携して積極的に傷を治す新世代の素材の開発に貢献できる」と、その成果を説明している。

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New material could ‘drive wound healing’ using the body’s inbuilt healing system

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