筑波大学は2019年1月29日、福井大学と共同で、既存研究において世界最高周波数の303GHzで動作するレクテナ回路を開発し、ワイヤレス給電実験に成功したと発表した。
電波によるワイヤレス給電方式は「置くだけ充電」などに用いられているが、従来の通信マイクロ波帯(数百MHz~5.8GHz)における研究例がほとんどだ。超高速通信規格5Gとその次の世代のBeyond 5Gでは、より高い周波数帯(28GHz~数百GHz)の利用が想定されている。この周波数では、レクテナ(整流回路とアンテナが一体化したもの。外部入力された電波を直接、直流電力として変換する)の小型化が可能で、レクテナの面積当たりの直流出力電力(レクテナ電力密度)を大きくできる。つまり、限られた面積に送れる電力を大きくできる。
また、周波数を上げることで、発信源から出力される電波の指向性を向上できる。指向性が高いと電波の拡散が抑制されるため、長距離においてもレクテナの外に散逸する電波が減り、ワイヤレス給電の効率が向上する。
しかし、周波数を上げるにつれてレクテナ回路の効率が下がることが知られており、100GHzを超える実験は難しいとされてきた。また、マイクロ波帯の中でも低周波数帯では発信源として、電子レンジに用いられているマグネトロンや半導体素子などが容易に入手できるのに対し、100GHz以上の高周波帯ではワイヤレス給電の送電に必要な発信器が高価で入手が困難、技術的に製作が難しいなどの問題があった。そのため、28GHz~100GHzなどの高周波帯でのワイヤレス給電の実験は日本では実施されておらず世界的にも数例程度で、100GHzを超えた研究例は存在していなかった。
今回、研究グループはBeyond 5Gを超える303GHzで動作するレクテナ回路の開発に成功。さらに、100GHz以上の大電力マイクロ波の発信源「ジャイロトロン」の開発実績をもつ福井大学遠赤外領域開発研究センターと共同で、この回路を用いてワイヤレス給電実験を実施した。その結果、303GHzでのワイヤレス給電に成功し、整流効率2.17%、直流出力電力17.1mW、レクテナ電力密度3.43kW/m2を記録。レクテナ電力密度は過去最大値を更新し、高周波ワイヤレス給電の有用性を実証した。
今回の研究結果は、ワイヤレス給電の高周波化の有用性を示し、エネルギーハーベスティングによるIoTへの応用や宇宙太陽光発電、ドローンへの無線給電への利用拡大が期待されるという。高周波帯のワイヤレス給電は長距離、大電力用途に適しているものの、整流効率が低周波帯に比べて大きく劣るという課題がある。課題解決には、高周波帯に対応し大電力出力可能な整流ダイオードの開発が求められており、研究グループは今後先行研究で用いられているGaAsショットキーバリアダイオードの代わりとして、GaNダイオードやMIMダイオードの開発に取り組むという。