鉄触媒を用いて、炭素-水素結合を1段階で炭素-炭素結合に変換する手法を開発――有機エレクトロニクス材料の効率的な合成が可能に 東大

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開発した鉄触媒反応機構の模式図([Fe]は鉄触媒、Bは塩基、Xは配向基を表す)

東京大学は2019年3月26日、ベンゼンなど炭化水素の構成要素である安定な炭素-水素結合を、温和な条件の下で鉄触媒によって、1段階で炭素-炭素結合に変換する手法の開発に成功したと発表した。この反応を用いれば、2種類の異なる芳香族化合物のクロスカップリングにおいて、100%の選択率で有機エレクトロニクス材料の効率的な合成が可能だという。

π電子をもち、物性特性に優れる共役化合物同士を結合させて、より複雑で大きな共役化合物を合成する手法は、より高性能な有機材料を開発する上で必須とされ、盛んに研究されている。その代表例が、1970年代後半から開発が行われ2010年にノーベル賞の対象となったクロスカップリング反応だ。この反応では、炭素-金属結合と炭素-ハロゲン結合をそれぞれ切断し、 炭素-炭素結合を生成する。しかしこの方法では、あらかじめ炭素-金属結合と炭素-ハロゲン結合を持つ化合物を合成する必要があり、工程数や副生成物が増えるという問題点があった。

クロスカップリング反応の模式図(Mは金属、Xはハライド、Arは共役化合物を表す)

その後、オタワ大学のグループがこの問題を解決し、2007年に世界で初めて2つの異なる炭素-水素結合をそれぞれ切断し、直接、炭素-炭素結合の構築に利用する手法の開発に成功した。以来、多数の研究グループがこの反応の有用性に着目し、主にパラジウムやロジウムといった第二周期遷移金属の触媒作用を用いた研究がされてきた。

しかし、これらの反応では触媒の基質に対する活性の差が小さく、ホモカップリング体Ar1–Ar1やAr2–Ar2の生成を抑え、目的のクロスカップリング体Ar1–Ar2を与える触媒中間体Ar1–M–Ar2を選択的に生成することが難しかった。このため、同じ基質同士の反応が進行し、一方の基質を過剰量用いる必要があるという問題点が残されていた。

炭素-水素結合を切断し、炭素-炭素結合を生成する一般的な反応の模式図(Mは金属触媒を表す)

そこで、東京大学の中村特任教授らの研究グループは、鉄触媒の作用機構に着目。等量の基質の存在下で、異なる基質の炭素-水素結合を切断し、効率的に炭素-炭素結合を生成する反応の開発に成功した。

鉄触媒を用いて炭素-水素結合を切断するには、切断を行う炭素-水素結合に触媒を接近させる役割を果たす「配向基」が必要不可欠だ。また、配向基を有する基質の炭素-水素結合を切断した後に生じる鉄中間体は、もう一度同じ基質とは反応しない。この2つの事実から、研究グループは、配向基をもつ基質(基質1)と酸性度の高い炭素-水素結合を有する基質(基質2)を鉄触媒とともに共存させることで、鉄触媒がそれぞれの基質の炭素-水素結合を逐次的に切断し、選択的かつ効率的にクロスカップリングできると考えた。

まず鉄触媒は、配向基を有さない基質2の炭素-水素結合は切断できない(I~VI)ため、鉄触媒は配向基の配位結合を経由して(I~II)、基質1の炭素-水素結合を選択的に切断する(II~III)。中間体IIIは配向基と「配位子」(配位結合により金属に結合し、触媒の電子状態や構造を変化させることで触媒の反応性を制御する化合物)の効果により再度基質1とは反応できない(III~VII)ので、そこに基質2が存在すると基質1の炭素-水素結合の切断により生成した鉄-炭素結合が酸性度の高い基質2の炭素-水素結合との反応により開裂し、環の開いた中間体IVが得られる。そして、中間体IVでは基質1が配向基を通じて触媒に結合しているために、もう一度基質1の炭素-水素結合が切断され、基質1と基質2の両方が触媒に結合した中間体Vが生成される。したがって、中間体Vから基質1と基質2とのクロスカップリング体を得ることができる。

研究グループは今回、8-アミノキノリニルアミド基を配向基Xとして有する基質1と酸性度の高い炭素-水素結合を有するヘテロアレーン基質2を反応剤として用いたところ、等量の基質の存在下で、ホモカップリング反応を起こすことなく、効率的にクロスカップリング反応を進行させることに成功した。今回開発された反応機構は、有機太陽電池で正孔輸送材料として用いられるドナー型チオフェン(1)、アクセプタ型チオフェン(2)、有機半導体の基本骨格として用いられる縮環チオフェン(3–6)などの有機エレクトロニクス材料合成に応用できる。また、配向基をルイス酸によりエステルに変換後、有機リチウム試薬と反応させ「フリーデルクラフツ反応」により環化することで、有機半導体を効率良く合成することが可能になるという。

有機エレクトロニクス材料の簡便合成の具体例

反応で得られた化合物の有機材料合成への応用(Ph = C6H5)

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