MITの研究チームが、比較的マイルドな低温、120K(-153℃)のグラファイトにおいて、熱が高速で伝導する「第2音波(second sound)」と呼ばれる現象を発見した。熱が通常の拡散ではなく、音波が空気中を伝播するように音速に近い速度で伝播し、高い熱伝導度を示す現象だ。この特殊な熱伝導モードは、グラファイトと同じ炭素系の2Dグラフェンでは更に加速され、場合によっては室温以上でも生じると予想されている。将来的に超小型化と高集積化が進む電子デバイスにおける、効率的な放熱手段として期待される。研究成果は、2019年3月14日の『Science』誌に公開されている。
一般的に、熱は結晶中を格子振動エネルギーの塊であるフォノンが拡散する形式で伝播する。その過程において、結晶格子から逆方向も含めた全方向への散乱を受けるため、熱源の冷却は遅く、加熱を止めたヤカンがコンロの上で徐々に冷却するように、最後まで最も高温の場所として残る。しかし第2音波においては、後方散乱が著しく抑制されるため、逆にフォノンは運動量を維持して一挙に飛び出し、熱が波動として伝播する。これにより熱源は音速に近い速度で瞬間的に冷却されることになる。これまで第2音波が観察された例は、高純度で調整が難しい材料で、しかも極低温の20Kにおいてのみであり、学問的な議論に留まっていた。
これまでの理論研究で、グラフェンにおけるフォノン散乱では、ある温度範囲で運動量を保存するように振る舞うことがわかり、第2音波を生じる可能性が示唆されていた。研究チームは、グラフェンと同じ炭素系であり、鉛筆の芯として使われるグラファイトに注目した。フォノンの伝播および後方散乱挙動についてシミュレーション計算を行ったところ、80Kから120Kの温度範囲で、第2音波と類似した伝播現象を示すことを見出した。
そこで、10mm2の市販グラファイトのサンプルを用いて、実験的に立証することを試みた。過渡熱格子と呼ばれる手法を用い、2つのレーザービームを交差させ、光の干渉により約10μm間隔のリップルパターンをサンプル表面に発生させると、リップル頂上の直下は加熱され、リップル谷底の直下は加熱されない。加熱を止めると、通常の熱伝導モードでは、熱が頂上から谷底へ伝導するとともに、表面リップルは徐々に消えるはずだが、3つ目のレーザーを使った光検出器で測定された結果では、頂上が瞬間的に谷底よりも低温に冷却され、リップルパターンが反転した。これは、ある瞬間には熱が低温部から高温部に伝導するという、通常では考えられない現象が起きたことを意味している。
研究チームは、2Dグラフェンは、グラファイトよりも高温で、第2音波の特徴を示すと予測する。これが実証できれば、グラフェンは高集積化した超小型電子デバイスを冷却する上で、極めて有効な手段になると期待している。