制御設計に必要なModel-Based Design (MBD)とは――MBDが生まれた背景と広く普及した理由を聞く

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MathWorks Japan インダストリーマーケティング部部長 阿部悟氏


様々な業界における電子制御化が進むにつれ、実機を仮想環境でモデル化し、シミュレーションして設計と検証を繰り返し、実装までを行う開発手法である「モデルベース開発(MBD:Model-Based Design)」が、特に自動車業界を中心に普及しつつあります。

今回から、MBD開発向けのツール「MATLAB」と「Simulink」を開発・提供するMathWorks Japan インダストリーマーケティング部部長の阿部悟氏に、MBDが登場した背景から、その最新情報までお話を伺います。第1回は、「MBDの生まれた背景と広く普及した理由」です。(執筆:後藤銀河、撮影:杉能信介)


自動車の電子制御システムの複雑化が普及のきっかけ

――始めに、モデルベース開発という考え方、技術が生まれた背景、そして特に自動車業界で広く普及した理由について、教えてください。

[阿部氏]MBDが自動車業界に普及した背景としては、自動車の電子制御システムの複雑化がもっとも大きいでしょう。自動車の電子制御化は1970年代に始まりましたが、特に1990年代のアメリカから始まった排出ガス規制が大きな波となりました。

法律で、LEV(low emission vehicle)やULEV(ultra low emission vehicle)、ZEV(zero emission vehicle)といった排出ガスを出さない自動車を販売しなければいけないという、いわゆる総量規制が求められ、各自動車メーカーでエンジンの燃料噴射制御、電子制御スロットルなどといった技術を組み合わせて、排出ガス規制、燃費規制をクリアしようという活発な動きが起きました。

新たなチャレンジに取り組む中で、以前のように試作品を作って実験して、というトライアンドエラーを繰り返す開発プロセスでは、リードタイムが長くて効率が悪い。当時は、ハードウェアの開発ではCAD/CAMを導入して効率化が進んでいましたが、車載電子ユニットのソフトウェア開発はまだアセンブラが主流でした。

そこで、モデルを作ってコンピューター上でシミュレーションをして、成果が出たものから実装していくというMBDによる開発プロセスが導入されるようになりました。

自動車の排気ガス対策をきっかけとした電子制御の発達により、MBDが広く普及することになった

――自動車の排気ガス規制を乗り越えるという、大きなニーズが背景にあったわけですね。

[阿部氏]弊社では主力製品の「MATLAB」「Simulink」を開発環境として提供し、排出ガス規制に対応したエンジン制御開発を行う必要のあったエンジニアに広く受け入れられました。主な利用者は、自動車業界を始め、航空宇宙業界や通信・エレクトロニクス業界、産業機械など多岐にわたっています。

MATLABは、もともと算術計算ソフトウェアとして開発されたもので、世界各国のナショナルバンクなどの金融系では金融予測をする際にも活用されたり、ノーベル財団でもポートフォリオの資産負債管理に使われています。アカデミアにも力を入れていますので、大学関係ではロボットの制御アルゴリズムの設計開発やデータサイエンスの分野における研究や授業で利用されています。

普及に弾みがついたのは、1994年頃でしょうか。パーソナルコンピュータが普及し始めた時にSimulinkがリリースされたことにより、普通のデスクトップPCを使って、エンジニアがやりたいことができる環境が整いました。

――MBDを導入することによるメリットは、どのようなものがありますか。

[阿部氏]MBDの真骨頂は、モデルをベースにして製品開発を進めることにあります。明確なメリットは、シミュレーションをして開発の初期段階で仕様を詰めることができるので、試作回数を減らせることです。開発期間を短縮し、モノづくりコストが削減できます。また、モデル化することでデータの再利用性が高まり、開発の効率化、再現性の確保というメリットもあります。

試作によるトライアンドエラーを削減し、開発プロセスの効率化が可能

[阿部氏]大切なことは、モデル+シミュレーションだけでなく、様々な検証を加えた上でコードを生成するということです。これまで手でやってきたところを、自動化するわけです。例えば自動車の開発でいえば、PC上でモデルが要求仕様通りにできているかを確認した後、ECU(Electrical Control Unit:電子制御ユニット)のコードを自動で生成してダウンロード(実装)。要求仕様通りに動作し、不具合がないのか、テストするところまでを自動化できるのが、MBD導入のメリットです。

Forward Collision Warningシステムの環境。CANやEthernetなどの通信環境を含めたシミュレーションが可能だ

[阿部氏]MATLAB/Simulinkでは、エンジンやハイブリッドシステム、トランスミッションなど、個別のコンポーネントがオプションツールの中に用意されています。システムレベルで成立するように、各コンポーネントの物理現象をシミュレート可能なツール群を揃えています。

――様々なステップが自動化されることで、開発プロセス全体が大幅に短縮できるわけですね。

[阿部氏]従来のプロセスにMBDを導入すると、担当者のワークロードは一瞬高くなるため、最初の立ち上げは大変でしょう。ただ、シミュレーションや検証テストを繰り返し行ってから最終的な実装を行うことで全体の工数を劇的に減らすことができます。

企業によってはコードを作るためだけにモデリングするなど、部分的に導入している例も多くあると思いますが、全体的なワークフローの中で、組織単位で必要なツールを導入し、活用していくことが大切です。個人レベルで使っているだけでは、業務効率や品質向上は限定的なものになるので、組織単位でワークフローに合わせたMBDを導入することが重要になります。


阿部悟(MathWorks Japan インダストリーマーケティング部部長)
輸送機器制御システムの基礎研究や、エンジン、ボディ、シャシー電装製品や新規製品のビジネス開発を担当し、2012年より数学的計算ソフトウェアの開発を行うMathWorks Japanにて現職。マーケティング活動を通してMBDの推進に尽力している。

取材協力先

Mathworks


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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