安全で高性能な協働ロボットを実現する――ドイツSENSODRIVEが開発するトルク制御駆動装置「SENSO-Joint」とは(後編)

SENSODRIVE CEO Norbert Sporer氏

「産業用ロボット」と「協働ロボット」、その最も大きな違いは「安全性」に対する考え方だという。製造業の製造ラインに組み込まれる産業用ロボットは、まさに生産ロボットとして高出力・高強度で設計されており、他の作業員の安全確保のために周囲は立ち入り禁止で安全柵によって囲われていることが多い。一方で、「コボット(collaborative Robot)」とも呼ばれる協働ロボットは、作業員と作業領域が重なっても事故を起こさないという安全性を最重要性能として設計されている。

今回、「安全で高性能な協働ロボットを実現する」と題して、トルクセンシングロボットジョイント技術をコア技術として、ドイツで最先端のロボット技術開発を行うSENSODRIVE(センソドライブ)のCEO Norbert Sporer氏に、同社の主力商品である協働ロボット向けトルクセンシング駆動ユニット「SENSO-Joint」を中心にお話を伺った。後半は、協働ロボットに求められる安全性を中心にご紹介する。

<プロフィール>
Norbert Sporer(ノルベルト・スポラー)氏
ミュンヘン応用科学大学とミュンヘン工科大学で電気工学を学び、ミュンヘン工科大学の制御・フィードバック工学部門にて開発エンジニアとしての知識を深めた。
1994年、ドイツ航空宇宙センターのロボット工学・電子工学研究所の軽量ロボット開発の責任者となり、自身のアイデアでロボット工学の新基準を打ち立てた。
2003年、SENSODRIVEの共同設立者・CEOを務め、今日に至る。

――協働ロボットに必要な安全性について、お話いただけますか?

[Norbert Sporer氏]協働ロボットとして、SENSODRIVEが最も重要だと考えるのは安全性であり、ISOやIECなど国際安全規格に準拠し、ハイクォリティな素材と加工品質による高い信頼性や衝突に対する事故安全性を達成しています。また、精密な制御技術によって医療器具で求められるような無振動性、人間の触覚を再現する高い感度、最高速度時でも正確に作動する精密性を備えています。

このロボットアームは、産業用ロボットのような安全柵に囲われていないため、人間と接触する可能性がある状況でも問題を生じないよう、協働ロボットとして必要な安全性要件が達成されています。これはすべてSENSO-Jointによって実現できるもので、デモによってご紹介します。

[Sporer氏]このように、動作中のロボットアームに手で触れると、ロボットアームは直ちに動きを止めるだけでなく、わずかな力で自由に動かすことができます。ロボットアームの挙動は自由に設定することができ、無理やり曲げようとする力に対して強い反力を生じさせることもできます。メカニカルな可動範囲のリミッターではなく、強力なモーターとソフトウェア制御により可動域を決めています。また、手で位置合わせをして、繰り返し動作を記憶させるハンドティーチングや、ソフトウェアによってアームの可動範囲の領域を定義することもできます。また、ソフトウェア制御により、特定の方向にのみバネのような弾性をもって作動させることもできます。

トルクセンシングとソフトウェア制御で安全性を保証する

[Sporer氏]つまり、ソフトウェア制御によって、ロボットアームに任意の「機械的な特性」を付与することが可能です。SENSO-Jointのトルクセンシングはとても敏感なので、羽根で触れたこともセンターシャフトのトルク変化として検知できます。また、制御によってアウトプットトルクを極力ゼロに近づけるようにセットすれば、ロボットアームは羽根に触れただけで動かすことができ、離すと直ちに止まるような挙動も実現できます。このように、ソフトウェア制御で安全を保証する協働ロボットには、SENSO-Jointのように高強度と高感度を兼ね備えたコンポーネントが必要なのです。

――協働ロボットにはカメラユニットを搭載して、人との接触を検出するものもありますが、SENSO-Jointのアプリケーションでは、ドライブユニットに組み込まれたトルクセンシングによって安全性を確保しているのですね。

[Sporer氏]このスカラロボットによるデモンストレーションからお分かりいただけるように、高いフレキシビリティが特徴です。ロボットが安全であることを保証するためのソフトウェア制御が、あらかじめSENSO-Jointに組み込まれているので、コントロールモードを切り替えたり、パラメータの設定を変更するだけで、こうした挙動を簡単にプログラムすることができます。

ロボットアームの目的に応じて、ロボットアームをどう動かすのかという全体の制御はロボットメーカーが構築する必要がありますが、ジョイント部の制御は安全性も含めてSENSO-Jointに組み込まれたソフトウェアとインターフェースするだけで実現できます。

協働ロボットでは、安全性が何よりも重要な性能だ

――安全に関する国際規格ですが、SENSO-Jointが単体として安全認証を取得しているということですか?組み込まれた製品、例えばロボットアームシステムや医療用顕微鏡は改めて認証取得する必要があるのでしょうか。

どうすれば安全規格に準拠できるのか

[Sporer氏]弊社だけですべてのアプリケーションに対して認証の取得や品質保証を行うことは不可能です。私たちの使命は、ロボットメーカーが最短期間で認証を取得できるようなジョイントを提供することです。SENSO-Jointによって、リスクを最小化し、開発期間を短縮することができます。例えば、ISO/TS 15066(Robots and robotic devices―Collaborative robots:協働ロボットに関する安全性の要件を定義した国際規格)にはロボットのボディやアームによる、人体へ作用する力や加える衝撃の最大値、限界値などが規定されていますが、SENSO-Jointを使うことでその限界値を超えないようにセッティングすることができます。つまりロボットメーカーは、安全規格に準拠できる能力を備え、テストによって検証されたコンポーネントを使うことで、アプリケーション全体を安全規格に準拠させることができます。それが私たちの製品の最大の強みです。

――安全規格に準拠したロボットを製品として供給するのではなく、SENSO-Jointを使うロボットメーカーが安全規格に合格した製品を提供できるようサポートするということですね。

[Sporer氏]私たちには安全な協働ロボットを制作するノウハウもありますが、既存のロボットメーカーと競合する製品を作ろうとは思っていません。あくまでロボットメーカーに納品するコンポーネントサプライヤであり、そうすることですべてのロボットメーカーとパートナーになる可能性が生まれます。私たちにとってのマーケットは、そのほうが大きくなると考えています。

――2020年12月のプレスリリースで、日本への進出を発表されています。日本のマーケットに対してどのようなアプローチを考えていますか?

[Sporer氏]大手ロボットメーカーの多くは日本に拠点がありますので、日本への進出は私たちの技術を日本のロボットメーカーに提供する良いチャンスだと考えています。日本の協働ロボット市場は大きく、ジョイントとして数万の需要があるだろうと見ており、SENSODRIVEのメインマーケットになると考えています。

今回の日本進出には、日本の製造業、ロボットメーカーとの技術提携によって、次世代型産業用ロボットを開発するという狙いがあります。来年、東京で開催される『2022国際ロボット展(iREX)』への出展も検討しています。

日本のロボットメーカーと次世代型産業用ロボットの共同開発を目指す

[Sporer氏]SENSO-Jointのように、必要なソフトウェアとハードウェアが組み込まれたコンポーネントを供給するメーカーは他にありません。既存のロボットメーカーは、ジョイントや制御を自社で内製していますが、SENSO-Jointのように既にテスト済みで安全規格にも適合できるコンポーネントを組み込むことが、ロボットメーカーが内製で行うよりも、開発期間の短縮、コストの削減といったメリットがあると考えています。

――ロボットアームを自社開発するロボットメーカーは、ある意味競合相手でもあるということですね。

[Sporer氏]短期間でロボット開発を行いたいと考えるロボットスタートアップにとって、SENSO-Jointは非常に使いやすいコンポーネントになるでしょう。私たちのゴールは、大手ロボットメーカーからスタートアップまで、幅広くコンポーネントを提供することだと考えています。

――今後、協働ロボットの市場は拡大していくとのことですが、なんらかの形でロボット開発に携わっていく日本のエンジニアに向けて、アドバイスをいただけますか?

[Sporer氏]私たちが技術開発でもっとも大切だと考えるのは、コラボレーション(協力・共同作業)です。他者が持つ技術を使うことで、自分が開発する速度を上げることができます。エンジニアはしばしば自分の力で開発することにこだわる傾向がありますが、過去に類似例がない独自技術を除けば、他の技術に対して常にオープンであることが大切です。

チームメンバーと協力し、常にオープンマインドであることが成功への近道

[Sporer氏]私はロボット工学の専門家ですが、プロジェクト開発のためには制御エンジニアや機械設計、ソフトウェア開発や量産といった多くの領域のスペシャリストを必要としました。他のメンバーと協力し、オープンであることで、プロジェクト全体が最大の成果を生むことができます。

チームでは自分だけが成功しても、他のメンバーが成功しなければ全体としては失敗に終わります。プロジェクトメンバー一人ひとりが自分の役割に誇りを持ち、他のメンバーの達成を正しく評価し、他のメンバーの成功を自分の喜びとして共有すること、これがチームとして素晴らしい成果を出すための私の経験からのアドバイスです。

取材協力

SENSODRIVE

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