日本には、約22万もの工場があります(総務省・経済産業省 平成28年経済センサス―活動調査 製造業に関する結果。従業者数4人以上の製造事業所数)。その99%以上が従業員数300人以下の中小企業。いわゆる「町工場」などが含まれます。本コラムでは、そんな町工場の持つ技術や取り組みについて、元機械設計エンジ二アの工業製造業系ライターがお伝えします。
今回訪れた有限会社浅井製作所は、各種ねじの製造販売を行う町工場です。工場といっても、従業員は社長だけ。最大で1日40万本ものねじが製造可能な工場において、受注から製造、販売まで、全て1人で行っています。代表取締役の浅井氏に、ねじの作り方や工場の特色の他、自社製品や独自の取り組み、エンジニアに向けてのメッセージなどをお聞きしました。(執筆・撮影:馬場吉成)
代表インタビュー 有限会社 浅井製作所 代表取締役 浅井英夫氏
――工場の特色について教えてください。ねじはどのように作られているのですか?
ねじは旋盤などで削って作るものと、圧造でねじの頭を作った後に転造でねじ山を立てて作るものがあります。当社では圧造・転造で製造しています。たくさんのねじを作るような工場では、この手法が多いですね。工場には圧造機のダブルヘッダーが10台。転造機のローリングが7台。あとは、全てのねじに施すわけではないですが、足割機が5台。他にも、製造途中で使う洗浄や研磨の機械があります。メッキや熱処理は外注で行っています。
1日フルで稼働させると、生産量は1台あたり1日4万本ぐらい製造できますので、10台で最大1日40万本ほどになります。当社の圧造機は旧式で、一般的な動きしかできないので、何段階にも圧造する多段ヘッダーで作るような特殊な形状のねじは受注していません。基本的には量産オーダーに対応していますが、インターネットから10本、20本という小ロットのものでも受注しますので、そういう意味では完全に大量生産品のみというわけではありません。
市場に出ている規格品のねじは、長さも頭の形も大体決まっています。M3のねじであれば、長さは一番短いもので5mmから。頭の形状にもよりますが、5、6、8、10、12、15mmです。M3で長さ7mmが欲しいとなると、新規で作らなければなりません。1本、2本なら長いものを切ってサイズ調整をしますが、100本など数量が多くなってくると難しい。
当社の特色は、このような用途や形状のものが欲しいという方に、いかに安く提案できるかを得意としていることです。「型がなければこの頭の形は出来ませんよ」ではなく、「このような形状であれば、今持っている型を流用すれば近い形ができるので、新たな型代は不要です」というような提案をさせていただきます。
また、全て1人でやっているからこそ、柔軟に対応しやすいのも特色の1つです。通常は圧造と転造加工の2つの工程にそれぞれ職人さんがいて、それとはまた別に注文を受ける人がいます。そうすると、個々の部門の都合だけで判断してしまい、うまくやればできるのに、できないと判断してしまうことがある。当社の場合、私が受けて、ヘッダーもローリングも私1人で対応しますので、どうやればいいのか全部頭の中にあるので、すぐに回答できます。当社では、M4サイズ以上はできません。そのかわり、ロット数は制限をかけず、10本、20本といった少数でも受けています。
2001年にホームページを作り、インターネットからの注文による製造販売もおこなっています。ネットからの受注は年々増えています。2017年には今までおこなっていたFAXでの注文や問い合わせを止めました。1人でやっているので事務的な作業をいかに減らすかを考えたら、そういったものは全部PCでやった方がいいと判断しました。我々のような中小の製造業は全体的にネットに弱く、それはねじ業界も同じです。インターネット経由で依頼を受けると、依頼主のほとんどがエンドユーザーで、風通しがいい。こうやった方が安くなるとか、最低限おさえないといけないところはこれだとか、こういうやり方もありますよとか。全て1人でやっているから、柔軟に対応ができます。
ただ、柔軟というと、納期的に早いとか価格が単純に安いと思われがちですが、そうではありません。規格にないようなものでも、この方法ならば製造できるので比較的価格を抑えられるといった提案ができる、という柔軟さです。
――自社製品や何か独自の取り組みはありますか?
頭部高さを約70%カットした超低頭ねじのシリーズです。以前、小型2足歩行ロボットの関係で問い合わせがあった際に作り、おもしろそうだと思い商品化しました。今では多くの小型2足歩行ロボットやラジコン、省スペースが求められる小型の精密機器、ねじ頭の干渉が気になる扉の開閉部分、人が触れる家具類など、様々なところで使われています。
それから、デザインフェスタ(オリジナル作品を展示販売できるアートイベント)で、ねじを締めこんだアクセサリーを10年以上販売しています。製造業のなかでB to C商材をやりはじめた例としては、当時は珍しかったと思います。メインの業務はねじの製造なので、イベント以外で大量には作れませんが、社名を出すうえでの宣伝媒体として役立っています。
ホームページでは、工場見学も積極的に受け入れています。大人から子どもまで見学にきています。最近は製造業とデザインの融合も増えているようで、ねじのアクセサリーを出しているデザインフェスタで知り合った別の出展者の方も見学にきています。見学後、サンプルで提供したねじをレジンで固めて指輪やペンダントトップなどの作品を作った方や、自身の作品に使うねじを小売り用の在庫品から後日購入していただいた方もいます。
2015年にはクラウドファンディングで資金を募り、工場をのぞけるようにした穴も製作しています。以前から、道に面した窓の下に台を設けて、「のぞき見歓迎」と看板をつけ、工場内を見る事ができる「のぞき窓」を用意していました。より気軽に工場内を見てもらえるように、壁に穴をあけてイラストを描き、「のぞき穴」を作っています。多くの方々に工場の現場を知っていただき、ものづくりに対しての興味につながってくれればと思っています。
――エンジニアの方々に向けてメッセージをお願いします
「ねじなめんなよ」と色々なところで言っています。ねじの十字をなめてしまう(頭を壊してしまう)事と掛けているんでしょと言われますが、根本的なところで、「所詮ねじは部品の一部」とは思わないでほしいという意味合いで言い始めました。どこのねじでも同じ、と思わがちですが、当社のような量産メーカーにしてみれば、たかがねじでも使ってもらえなくては商売にならない。ねじ業界だけではないかと思いますが、ラインを組んで1つのものを大量に作っていくような時代ではなくなってきていて、最近では商品のバリエーションを増やして少量生産する傾向にあると感じています。実際に触れて、感じて、広くものづくりに対しての興味を持ってもらえればと思います。
見た目の古さに反する新しい取り組みの数々
浅井製作所は、使用している装置は確かに古く、機能も制限されています。しかし、ネットを使った販路拡大や、小ロット対応など、1人で業務を効率よく、かつ最大限の効果を発揮するような工夫が凝らされていました。少品種大量生産から多品種少量生産にシフトしていく今後の製造業を見据え、日本の製造業で遅れているデジタル化の流れを上手く取り入れ活用する姿勢は、参考になる点が多いと思います。「ねじなめんなよ」というメッセージには、ねじがいかに機械にとって重要なパーツであるかを広く伝え、知ってもらいたいという、浅井社長の熱意を感じます。見た目の古さに反する新しさのある町工場でした。
工場基本情報
社名 有限会社 浅井製作所
事業内容 タッピングねじ、小ねじ、精密機器用ねじ等 各種製造販売
所在地 埼玉県草加市谷塚上町449-7
Mail asai@nejikouba.com
従業員数 1名
設立 1968年12月に現在の場所に移転、操業開始
設備リスト 主要生産設備
ダブルヘッダー 10台
ローリング 7台
足割機 5台
洗浄機、研磨機他
基本ねじ径 M1.6、1.7、2、2.3、2.5、2.6、3に対応可
ライタープロフィール
馬場 吉成
工業製造業系ライター。機械設計の業務を長く経験。元メカエンジニアで製造の現場を直接知るライターとして製造業向け記事、テクノロジー関係の記事を多数執筆。大学時代にプロボクサーをやっていて今はウルトラマラソンを走り、日本酒専門の飲食店も経営しているので時々料理や体力系ネタ記事も書いています。