量子科学技術研究開発機構は2019年6月14日、東京工業大学と共同で、ニッケル酸ビスマス(BiNiO3)とニッケル酸鉛(PbNiO3)の固溶体が、組成に応じて金属間電荷移動と、極性−非極性転移という、2つの異なるメカニズムで、温めると縮む負熱膨張を示すことを発見したと発表した。
ほとんどの物質は温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大するが、光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される局面では、このわずかな熱膨張が問題となる。そこで、昇温に伴って収縮する「負の熱膨張」を持つ物質により、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)することが試みられている。これまで、反強磁性転移、電荷移動、強誘電転移などの相転移が負熱膨張の起源となることがわかってきたが、1つの材料系が複数のメカニズムによる負熱膨張を示す例はなかった。
今回の研究では、ニッケル酸ビスマスとニッケル酸鉛の固溶体(Bi1-XPbXNiO3)を作成し、第一原理計算、第二高調波発生、大型放射光施設SPring-8で放射光X線回折実験と放射光X線全散乱データPDF解析、そして硬X線光電子分光実験を組み合わせて、結晶構造と電子状態変化を詳細に解析した。
その結果、0.05 ≤ x ≤ 0.25ではビスマスとニッケル間の電荷移動によって、0.60 ≤ x ≤ 0.80ではPbTiO3と同様に極性から非極性の結晶構造転移によって、それぞれ負熱膨張が起こることが解明された。また、x = 1.0に対応するニッケル酸鉛は、PbTiO3の強誘電相同様に極性の結晶構造をしていることも分かった。
今回の成果では、1つの材料系で、電荷移動、極性−非極性構造転移という、異なるメカニズムでの負熱膨張が起こることを解明。これは、4価を持つ鉛イオンの働きによると考えられ、今後の負熱膨張材料の設計指針構築につながることが期待できるという。