ナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターを開発――高入出力特性と高エネルギー密度を両立 JSTと日本ケミコン

ナノ結晶化チタン酸リチウム材料のTEM写真

科学技術振興機構(JST)は2019年3月5日、日本ケミコンに委託した産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「ナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシタ」の開発結果を成功と認定した。

この開発課題では、負極にキャパシター向けに調整したチタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターを開発し、エネルギー密度の大幅な向上に成功した。さらに、薄膜塗工電極などの技術を用いることで、キャパシターセルの内部抵抗を低減することにも成功。安定した充放電サイクル特性を持つ、減速エネルギー回生システムに適した蓄電デバイスを実用化した。

年々厳しくなる各国の二酸化炭素(CO2)排出規制(燃費規制)に対応するために、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の普及が進んでいるが、現在の主動力源であるエンジン車でもCO2排出量の低減が求められている。走行による運動エネルギーを減速時に電気として回収する減速エネルギー回生システムは、動力源が変わっても低燃費を達成するためには必須とされており、エネルギー回生システムに適した蓄電デバイスが求められている。

エネルギー回生システム用の蓄電デバイスとしては、2次電池と電気二重層キャパシターがあげられる。2次電池は体積あたりのエネルギー密度が高いが、蓄電メカニズムに化学反応を用いるために高入出力特性をもたせることは不可能だ。また、現行の液型リチウムイオン電池は発火事故のリスクを完全には払拭できないという問題もある。

一方、活性炭を用いる電気二重層キャパシター(電極と電解液の界面に形成される電気二重層を利用したキャパシター)は、優れた入出力特性を有し効率的な減速エネルギー回生が可能であるが、体積あたりのエネルギー密度が低いためにユニットサイズを大きくせざるを得ない点が課題だ。このように、既存の蓄電デバイスにはそれぞれ克服すべき問題点があり、減速エネルギー回生システムに適した安全性の高い蓄電デバイスの開発が期待されていた。

このような中、同開発では正極に活性炭、負極にキャパシター用に調整したチタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターを開発。高入出力特性、破壊試験で発火が生じない安全性を持つという電気二重層キャパシターの優れた特徴を継承しつつ、体積あたりのエネルギー密度を向上させた。

負極に用いるチタン酸リチウムは、導電率やリチウムイオンの拡散定数が小さい。そこで研究グループは、高入出力特性に対応するために、1次粒子径が数十nmサイズの微細な結晶とするとともに、結晶端部に高電導性のマグネリ相酸化チタンを形成して導電性の改善を図った。このナノ結晶化チタン酸リチウムの「Cレート特性」を評価した結果、高レート側でも高い実容量を持っており、材料レベルで高い入出力特性を有していた。

ナノ結晶化チタン酸リチウム材料のCレート特性

加えて、調整したナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターの体積あたりのエネルギー密度は、日本ケミコン従来品の電気二重層キャパシターに対して191%に相当した。また、充放電によるセルの容量劣化は10万サイクルで10%以内と、長期にわたり安定した特性を維持することも示された。

(左)実証用巻回構造セルでの初期特性(右)実証用巻回構造セルでのサイクル特性

同開発の結果、減速エネルギー回生ユニットの大容量化に成功し、アイドリングストップ時間の延長やオルタネーターでの発電が減ることによるエンジンへの負荷の低減が可能となった。その効果が、燃費改善やCO2の排出抑制につながるという。また、車載油圧機器の電動化や先進運転支援システム(ADAS)などの新しい電装機器のピークアシスト・バックアップ用自立電源としての活用も期待されるとしている。

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