- 2019-8-9
- 化学・素材系, 技術ニュース
- NEDO, OECD TG301C, アセチル化リグノCNF, セルロースナノファイバー, 京都大学, 新エネルギー・産業技術総合開発機構, 生分解性プラスチック, 産業技術総合研究所, 研究
産業技術総合研究所(産総研)は2019年8月8日、京都大学と連携し、セルロースナノファイバー(CNF)の一種である「アセチル化リグノCNF」が、高い生分解性を持つことを見出したと発表した。このCNFは、京都大学などが開発を進めてきたリグノCNF複合材料の補強用ナノ繊維だ。
近年、石油の価格上昇や枯渇リスク、CO2排出量の増大に伴う温暖化問題などの課題解決のため、バイオマス由来の新素材に関心が高まっている。その一つが、CNFやリグノCNF(以下、両者を総称してCNFと呼ぶ)である。一方、最近では海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題に注目が集まっており、その解決法の一つとして、製品に用いられるプラスチックを環境中に廃棄されても微生物の作用により速やかに生分解される「生分解性プラスチック」に代替することが考えられている。しかし、生分解性プラスチックには強度が低いという弱点があり、用途範囲が限定されるという課題があった。
産総研はこれまで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業としてCNFの安全性評価手法の開発を進めてきた。一方、京都大学もNEDOの委託事業として、各種プラスチックをリグノCNFで補強したリグノCNF複合材料の製造プロセス(京都プロセス)の開発を行い、リグノCNFの添加によりプラスチックの強度を大きく向上できることを示してきた。アセチル化リグノCNFは、無処理のCNFに比べて疎水性が高く、生分解性の著しい低下が懸念されており、そのため、高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発に京都プロセスを適用するには、アセチル化リグノCNFの生分解性の確認が重要と考えられていた。
京都プロセスによるリグノCNF複合材料中のアセチル化リグノCNFは、複合材料中からは単体として取り出せない。そこで、今回はアセチル化パルプを解繊し、アセチル化リグノCNFを得て生分解性試験に用いた。また、アセチル基の置換度(DS)は、プラスチックとの十分な混合と強度補強が可能と確認された値0.69とした。アセチル化リグノCNFの生分解性は、化学物質審査規制法で、一般環境での生分解性評価のために用いられている試験方法(OECD TG301C:Modified MITI TEST)によって調べた。その結果、試験に用いたアセチル化リグノCNFの生分解度は89±4%(3試料の平均と標準偏差)で、これは被験物質を良分解性と判定する基準の60%よりも十分大きく、比較のため並行して試験を実施したアセチル化処理していないCNFと遜色のない値だった。
これらのことから、アセチル化リグノCNFは、一般環境中に存在する微生物による分解を受けると判断でき、環境に優しい高機能性材料といえることが分かった。なお、プラスチックと複合化したアセチル化リグノCNFは、プラスチック中では生分解を受けて補強性が低下することはない。生分解性プラスチックを補強した場合、プラスチックが環境中で生分解して初めて生分解を受けることになる。
今回得られたアセチル化リグノCNFが良生分解性であるとの知見は、生分解性でありながら高強度を有する生分解性プラスチック複合材料の開発に道を開くものであり、生分解性プラスチックの用途を広げることで、海洋プラスチック問題解決に貢献できる可能性があるとしている。一方で、海水中では生分解性が異なる可能性があることや、アセチル化度が変わると生分解性も変化する可能性があることから、今後は、海洋プラスチック問題を念頭に、アセチル化度を変えて海水中での生分解性について調べるとしている。