二次電池用金属リン化物電極のバインダレス形成と長寿命化――次世代型高容量リチウムイオン電池の実現に貢献 豊橋技術科学大学

豊橋技術科学大学は2019年8月8日、エアロゾル・デポジション(AD)法を用いてバインダ(結着材)を用いず、リン化錫(Sn4P3)/カーボン(C)複合膜を金属基板上に形成することに成功したと発表した。今回の成果は、次世代型高容量リチウムイオン電池の実現への貢献が考えられるとしている。

リチウムイオン電池は、携帯用小型電子機器の電源として広く使用されており、最近では電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、定置型蓄電システムなどの中/大型電源としての用途展開が加速している。大容量な次世代型リチウムイオン電池の実現には、容量の高い負極材料の開発が望まれる。シリコンや錫は、リチウムとの合金化反応を通じて、現行の黒鉛負極(理論容量:372mAh/g)よりもはるかに大きな理論容量を示すため精力的に研究されているが、合金化(充電)/脱合金化(放電)時の体積変化が大きく、サイクル安定性が低いことが課題となっていた。

Sn4P3(理論容量:1255mAh/g)は、リチウム基準で約0.5Vの電位で作動する高容量合金系負極材料の一つで、ナノサイズ化したSn4P3をCと複合化することで、そのサイクル安定性が向上することが既に確認されている。一般的にリチウムイオン電池の電極は、充放電を担う材料(活物質)と導電助剤、バインダと溶剤を混合してスラリーを作製し、これを金属箔上に塗布/乾燥する工程で作製される。Sn4P3/C複合粒子を活物質とした先行研究では、サイクル安定性向上のため多量の導電助剤やバインダを混合しており、最終的な電極内での活物質の充填率(重量)が60〜70%と、電極総重量あたりの容量値が低下するという課題がある。

同大学の研究グループは今回、Sn4P3粒子にカーボン材料(アセチレンブラック)を簡便なボールミル処理によって複合化し、衝撃固化を介することで導電助剤やバインダを加えることなく、金属基板上に固化させた。この手法により、電極内での活物質の充填率を80%以上に調整した。カーボンの複合化と放電(脱合金化)電位の制御により、充放電サイクル時の電極構造の変化が抑制され、結果として、100サイクル後で黒鉛負極の2倍に相当する730mAh/g、200サイクル後で500mAh/g、400サイクル後で400mAh/gの可逆容量を保持できた。

今回の研究の成果は、次世代型高容量リチウムイオン電池の実現への貢献が考えられるほか、Sn4P3はリチウムのみならず資源的制約の少ないナトリウムについても合金化/脱合金化反応を示すため、リチウムイオン電池よりも低コスト化が可能なナトリウムイオン電池用電極への応用も期待できるとしている。

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