京都大学は2019年8月23日、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、材料組織をナノスケールで制御することによって、高強度と高延性を併せ持つ軽量マグネシウム合金の作製に成功したと発表した。
マグネシウムは軽量高強度材料として大きな期待が寄せられるが、一方でMgの持つ異方的な六方晶結晶構造ゆえに、延性/加工性に難点が残っていた。
同研究では、Mg合金を構成する結晶粒の大きさを1μm以下に超微細化し、高い強度と大きな引張延性を両立できることを見出し、そのメカニズムを明らかにした。
同研究では、Mg-6.2%Zn-0.5%Zr-0.2%Ca合金(mass%)を用い、High Pressure Torsion(HPT)という巨大ひずみ加工プロセスによって極めて大きなひずみの加工を加え、その後に種々の温度/時間の焼鈍熱処理を施した。その結果、0.77μm〜23.3μmの範囲の平均粒径の完全再結晶組織を有する多結晶試料を作製することに成功した。
これらの平均粒径のMg合金に対して室温で引張試験を行ったところ、粒径が1μm以下になっても、弾性変形から塑性変形が始まる降伏と呼ばれる現象点の後に十分大きな加工硬化を示し、結果として高い強度と大きな延性を両立することを発見した。
試料の変形組織を調べたところ、結晶粒が微細化するにつれて変形双晶の形成が抑制され、粒径0.77μm材ではほとんど変形双晶が生じなくなることが分かったという。
変形双晶が生じないことで粒界での破壊は抑制され、三次元的な変形が起きないという。粒径0.77μm材の変形組織を透過電子顕微鏡で観察すると、すべりをもたらす転位に加え、通常は活動しないはずの錘面すべりによる転位が見られたという。
これらの変形機構の劇的な変化が、高い強度とともに大きな引張延性を実現する要因だと研究者らは考えているようだ。
結晶粒径を1μm以下にするというアイデアは他の金属や合金にも応用でき、特異な変形機構の活動が生じる可能性がある。他の材料においても材料組織をナノスケールで制御することで、金属材料全体の変形と破壊に関する知見を深め、優れた力学特性を持つ構造用金属材料の開発を進めていくとしている。