分子レベルの厚さで高い誘電率と絶縁性を有するナノシートを開発 名古屋大学、NIMS

名古屋大学未来材料・システム研究所の長田実教授らの研究グループは2023年5月11日、物質・材料研究機構(NIMS)との共同研究で、分子レベルの厚さ(1.5~3nm)で高い誘電率と高い絶縁性を兼ね備えたナノシート(Ca2Nam-3NbmO3m+1)を開発し、ナノシートの積層素子で、世界最高のエネルギー密度(174~272J/cm3)を達成したと発表した。エネルギー密度は、現行の誘電体キャパシタの性能限界を突破している。

研究グループは、常誘電体ペロブスカイトナノシートには、分極特性が強誘電体のようなヒステリシス特性のロスがなく、線形の分極特性を示し、巨大分極(高誘電率化)と高耐電圧化を同時に達成することを見出した。この特性の活用によって、高い分極量を持つ誘電材料に、高い電界を印加し、ロスなく静電エネルギーに変換できるようになり、世界最高のエネルギー密度(174~272J/cm3)を達成した。

蓄電キャパシタ用の誘電体には、強誘電体、高誘電体に最適な構造として知られているペロブスカイト構造を有するCa2Nam-3NbmO3m+1(m=3-6)ナノシートに注目。今回開発したCa2Nam-3NbmO3m+1ナノシートは、誘電特性のキーユニットである金属酸素八面体(NbO6八面体)3個から6個分を単体として取り出したもので、究極の薄さの誘電体と呼べる。

この誘電体は、m数を変化させることで、NbO6八面体1個(厚み0.4nm)単位という精密な構造制御と自在な誘電特性の制御ができるという特長を有しており、蓄電デバイスの高エネルギー化に好適であることを確認している。

ナノシートの合成には、層状ペロブスカイト(KCa2Nam-3NbmO3m+1)を出発原料として用い、層1枚までバラバラに剥離し、ペロブスカイトナノシート(Ca2Nam-3NbmO3m+1)を合成した。キャパシタ作製には、薄膜作製技術を利用している。

ナノシートは、LB法を利用し、トランプを並べるようにナノシートを秩序正しく配列させ、薄膜を製造できる。下部電極は、LB法でナノシートをSrRuO3基板上に稠密配列させ、単層膜を作製。さらに、単層膜作製の操作を繰り返し、ナノシートの厚み単位で、膜厚を精密に制御した多層膜を作製した。この多層膜の上に、金のマイクロ電極を形成し、蓄電デバイス用キャパシタとして利用した。

作製したキャパシタの分極特性の評価では、Ca2Nb3010(m=3)、Ca2NaNb4O13(m=4)、Ca2Na3Nb6O19(m=6)のナノシートは、分極特性が線形の応答を示し、理想的な常誘電体の挙動を示した。また、いずれのナノシートも従来の誘電体、強誘電体薄膜に対し、2倍程度の高耐電圧化を達成しており、400MV/m程度の高電界印加ができた。また、Ca2Na2Nb5O16(m=5)ナノシートは、強誘電体特有のヒステリシス特性を示した。

エネルギー密度の評価では、m数による分極増加を反映。エネルギー密度の増大を確認した。ナノシートで確認したエネルギー密度(174~272J/cm3)は、従来の高誘電体、強誘電体薄膜のエネルギー密度(10~150J/cm3)に対して、2~10倍増大した優れた特性を示し、誘電体キャパシ夕としては世界最高性能になる。

今回開発したナノシートの誘電体キャパシタに加え、各種蓄電デバイスのエネルギー密度、出力密度を比較したところ、ナノシートの誘電体キャパシタは、同等の高い出力密度を保持しつつ、1~2桁高いエネルギー密度を実現できることを確認した。

ナノシートの誘電体キャパシタは、リチウムニ次電池、電気二重層キャパシタに匹敵する高いエネルギー密度を実現していた。開発したナノシートの誘電体キャパシタでは、優れたエネルギー密度、出力密度に加え、サイクル安定性、300℃までの高温での安定性を併せ持つ。

高性能の蓄電デバイスとして、リチウムニ次電池、電気二重層キャパシタ(スーパーキャパシタ)などの研究や実用化が進んでいるが、充電時間が長いことや、劣化や寿命、発火といった問題点がある。可燃性の液体電解質の代わりに、安定な固体電解質を使う全固体電池は、これらの問題点を解決する蓄電デバイスとして注目されている。

従来の蓄電デバイスの問題点を解決するもう一つ有効なアプローチには、誘電体を用いた蓄電キャパシタが挙げられる。蓄電キャパシタは、従来の蓄電デバイスと異なり、分極という物理現象を利用しており、数秒という短い充電時間、長寿命、高出力密度といった優れた特性を有する。しかし、エネルギー密度が低いという本質的な問題点がある。

誘電体キャパシタに蓄えられるエネルギーは、分極量と電界の積分量に関係するため、高エネルギー化は、高い分極量(誘電率)を持つ誘電材料に、できるだけ高い電界を印加し(電極間に電圧を与え)、ロスなく静電エネルギーに変換できるかが鍵となる。

これまでの誘電体キャパシタの開発では、主に高い分極量を持つ強誘電体、例えば、BaTiO3、PbTiO3やそれらの元素置換体などが利用されてきたが、高い電界を印加できず、さらにヒステリシス特性によるロスが大きいという問題があった。こうしたことから、現行デバイスの性能限界を突破する技術の開発が求められていた。

今回の成果は、ナノシートが持つ高エネルギー密度、高出力密度、短い充電時間(数秒)、長寿命、高温安定という特徴を利用した全固体蓄電デバイスへの応用が期待される。

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世界最高性能の誘電体蓄電キャパシタを開発 ナノシートで高エネルギー化を実現、究極の安全、全固体蓄電デバイスへ前進 – 名古屋大学研究成果情報

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